家の近所にある特別養護老人ホームで、ショートステイに訪れる軽度認知症を患う方々に対しての「傾聴ボランティア」に参加させてもらっています。
ほぼ毎回、初対面の方を相手にするのですが、自己紹介を終えた後、最初の語りかける会話の内容にとても困っていました。担当の社会福祉士さんに相談したところ「難しいですよね、みなさん今の生活に満足されている方ばかりじゃないですから。」とおっしゃいました。どちらにお住まいですか?とか、ご家族はどうですか?とか、最初から今の生活資源に関する話を振るのはリスクがあるということです。もし、今の暮らしに不満があれば、不快な気持ちになってしまいます。
傾聴ボランティアは、心理療法ではありません。おしゃべりを通じて楽しんでもらうことがゴールなので、温かい雰囲気で寄り添う姿勢を大切にさえしてれば、変な話ですけど内容なんでどうでもいいのかもしれません。たとえ会話がなくても、心が寄り添えていればそれでいいのです。
「今日は天気がいいですね」なんて、我ながら発想が日本人的だなと思ってしまいますが、季節や陽気から入ることにしました。
二者間にラポール(基本的信頼感)が形成され、緊張がほぐれ始めると、みなさんよく昔のことを話されます。女性が多かったからか、成人期(22〜35歳)より青年期(12〜22歳)の頃の話題が中心でした。毎年春に河川敷で行われる凧祭りの様子、母様が営む商店にまつわるお話など、生き生き瑞々しい描写で語られます。回想法ってこんな感じなのかなと、想像を馳せました。
週に一回だけの訪問なのですが、スタッフのみなさんからはとても有難がられました。素人の部外者がお邪魔しているので、迷惑をかけて申し訳ないと思っていただけにこの反応は意外でした。彼らは私がおひとり相手にしているこの一時間で、他の業務ができるというのです。介護士のみなさんは温厚で、同僚同士でも笑顔で会話しており、会場には朗らかで柔らかい空気が漂っていました。空気感、大事。
臨床心理士が介護施設で関わること、サポートできる部分はどこかを探ることを、傾聴ボランティアに参加する第二の目的においています。