特養ショートステイに来られるAさん(80歳くらい/女性)は、母親である「マキさん(仮称)」のことをよく語ります。マキさんがね、マキさんがねというので、最初は母親の話をしていることに気がつきませんでした。だって普通はお母さんがねとか母がねと言うでしょ。
雪国の村で生まれ育った彼女。母は小さな商店を営んでました。村にひとつしかないこの商店には、食品から生活用品まで揃っています。バス停の前に建っていたこともあり、ひっきりなしにお客さんが訪ねてきたと言います。みんなが母のことを「マキさん」と呼んでたんですって。村民全員から頼りにされ、親しみのこもった「マキさん」という言葉の響きに、誇りや尊敬を感じていたんでしょう。
「覚えている」ということは、その人の生育史のなかで、何かしらの意味があった出来事だということ。私はそんな貴重な物語をなんとか可能な限り正確に理解したい気持ちで聴かせて頂きました。
マキさんの話をする時のAさんの表情は、いつも幸せに満ちています。