情報のインプットとアウトプット。私が経験してきたビジネス場面と今いる臨床心理の場面では、この行為が持つ意味合いがだいぶ違うことを感じています。

いち営業パーソン(または営業推進スタッフ)として、個人に蓄積された経験をアウトプットすることは、基準をつくり効率化を図ろうとする組織からは賞賛される行為でした。人事部に移り、個人情報や組織マネジメント情報は無闇にアウトプットすべきものではないことを学びました。臨床心理の場面では、扱う情報がネガティブに作用しやすい超個人情報ということもあり、アウトプットは基本的に禁止されており、行う場面は限られています。

その場面のひとつがスーパービジョンです。クローズドで漏洩リスクのない状況下で、クライエントへの追体験や第三者視点を通じてセラピストが新たな気づきを獲得し、その後の支援を通じてクライエントへ利益還元することを目的としています。この場面でセラピストは、クライエントに対する援助行為の一切合財を魂ごと押し吐き出す、そんなアウトプットを行います。セラピストが体験した情報が、ひとりでは内包しきれない強烈さを持つこともあるため、スーパービジョンは浄化機能の側面ももっています。

定期的にスーパービジョンを受けることは臨床心理士としての義務ですが、扱う全てのケースを取り上げる時間はありません。また、なんでも報告すればいいというものでもありません。クライエントとのやりとりを、自分の内側に留めることも大事な仕事です。そうすることがクライエントの自己受容や変容に大きく作用するからです。アウトプットにもインプットにも、タイミングや巡り合わせがあるのです。

セラピストには混沌や不条理を内に留めておく強さと深さ、醸成させる豊かさが必要です。そしてその力は、日々の営みの中で鍛えていくのです。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。