私のセラピストとしてのデビューはもう少し先ですが、先輩の今進行しているケースの話や、先生の経験談をお聞きしながら、自分なりのイメージを膨らませています。

先輩が担当しているケースの報告がされた時、先生は感想としてこのようなことをおっしゃいました。「セラピストは表(おもて)面で面接に臨み、クライエントは裏面の話をしようとしている」

新米セラピストの宿命または苦悩とでもいいましょうか。セラピストは一生懸命に今まで習ってきた全てを総動員して支援をしようとしており、クライエントは新しい枠組みでの面接に慣れ始め自分の内面について語ろうとしている。その場面を指してこう表現されました。

この瞬間だけ切り取ればイマイチな印象を受けます、ねじれていますからね。しかし、この巡り合わせは双方にとって意味がありました。

先輩方のケース報告を受けていて、いつも思うのです。時に情熱は技術の上をいくなと。今回のケースでいえば、生育歴において支持者を得られてこなかったクライエントにとって、セラピストの人に向き合う真剣な態度が、自己変容を促す大きな要因になったのです。

お互いが今できる最大限の取り組みを行えば、何かしらの結果や兆しが生まれる。これが自然の摂理なのかもしれません。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。