レジリエンスとは、元々は物理学の用語で「外力による歪み(=ストレス)を跳ね返す力」という意味で使われていました。心理学者のラターは臨床的定義として「深刻な危険性にもかかわらず、適応的な機能を維持しようとする現象」と唱えました。私は「しなって折れない柳」のようなイメージを持っています。

特に産業領域で取り上げられることが多くなった背景に、近年の急激な労働環境の変化が考えられます。厚生労働省発表の「平成28年度 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、「仕事や職業生活において強いストレスを感じる」という労働者は59.5%で、前年度の55.7%から増加傾向にあります。また、ストレスの原因として「仕事の質・量」「仕事の失敗・責任の発生」「セクハラやパワハラを含む対人関係」が挙げられています。現代のビジネスパーソンは強いストレス状況にさらされる機会が増えており、これらのストレスに適応・回復できる能力としてのレジリエンスが求められているのです。

レジリエンスが高い人は、ストレス状況の捉え方が楽天的であることが報告されています。「まあ、なんとかなるさ」「まあ、なんとかできるさ」「まあ、なんとかやっていくさ」こう考えられる人です。適度なのんきさ・有能感・未来志向は、ストレスに対しての防御力を高めてくれます。

さて、レジリエンスは学習によって獲得することが可能です。事象に対する認知を変え、行動を変えるのです。

認知・行動の変化目標は、「変化を人生の一部と捉える」「ないからあるに目を向ける」「状況を分析し、自らの行動で変えられるところを見つけ、動いてみる」「小さな目標を立てて、達成する習慣をつくる」などいくつかありますが、私が注目する項目は「自分にとって大切なことをはっきりとさせて、それを守る」です。

柳のようにしなるには「どっしり」と「ぐにゃぐにゃ」の両方が必要です。自分の中にある「大切にしたいこと」と「受け流せること」を自覚するのです。今の私が大切にしていることは、自己判断と自己責任、公平であること、柔軟であること、でしょうか。大げさに考えるのではなく「今の自分が大切にしていることって何だろう?」と自問自答する時にふっと浮かび上がってくるフレーズをそっと拾って言語化してみましょう。

とはいえ、こうした内省や認知・行動変容は、自分ひとりの努力では難しいことがあります。その瞬間はできたとしても、人はそう簡単に変われないため、ひとりで頑張っていてもちょっと気を抜くと元に戻ってしまいます。書籍やWEBを使って一度試してみて、感触が良くて更にきちんと進めようと思うのなら、セラピストを頼った方がその成功率は高まると思います。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。