先日初めて心理面接に参加しました。父親と子どもがプレイルームで遊ぶのを枠として見守る役割だったのですが、精一杯やらせて頂きました。この先はどんどん経験を積んでいくのみです。精進します。

私が通っている大学院では、日本における家族療法の第一人者が専攻主任教授であることもあり、ケースカンファレンスでのほとんどの発表に、ジェノグラム(家族世代図)が用意されます。ジェノグラムは家系図のような役割示図に留まらず、家族成員それぞれの特徴や相互関係の質、大きな出来事などが、一定のパラダイムに従って書き入れられます。視覚的に直感的に瞬時に関係性を把握することができます。

心理療法のいち技法である家族療法では、家族を、個々の成員が互いに影響を与えあう、ひとつのシステムとして捉えています。そのため、家族成員に生じた問題は、単一の原因に起因するものではなく、”互いに影響を与え合う中で、問題を維持する原因と結果の悪循環を描いている”と考えます。例えば小学生の子どもがある時から継続して暴力的になっている場合、問題の原因は子ども単身ではなく、親や兄弟姉妹、祖父母などによる相互作用、つまり家族内力動の結果であると捉え、子どもだけではなく家族システム全体に働きかけることで、問題解決を図ろうとします。

私たちは忘られがちな祖父母を含めた、親、孫の三世代を同時に視野に入れています。個人心理学では心理的援助の対象を、親ないし子どもに限定する傾向が強いのですが、昔から今も残る嫁姑問題や、平均寿命80歳以上の高齢化の影響を考えれば、現代の家族システムにおいて祖父母世代との関わりを無視する訳にはいかないでしょう。事実、カンファレンスでも、祖父母世代が鍵要因になっているケース報告がごまんとあります。

加えてもうひとつ興味深いのは、ペットも大事な家族成員とみなすところです。ジェノグラムの中には「ネコ(2歳)」のようなプレイヤーが現れます。例えば負担が掛かっている家族成員を支える役割、または家族システムの歪みを一身に背負うバランサーとしてしばしば登場します。ペットもリソースに加えるあたりに、家族療法の懐の深さと現代性をみることができます。

私は、心理カウンセリングは1対1か個人の集合体であるグループセラピーの二構造だけだと思い込んでいたため、1対システム、もしくはシステム対システムという考え方は新鮮で、しかし関係性が複雑化している現代社会において、この方略は筋がいいと感じます。20世紀の心理学が個人に焦点化して大きな成果を上げたのに対し、今後の心理学のテーマは関係や相互依存に移行していきます。情報過多、多国籍化、個別性の尊重など、日本の社会が急速に多様化・変化していく中で、家族療法の考え方はすべての心理臨床家がもっていい視点だと思っています。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。