暑さが残る9月中旬、特別支援学校 中等部にお邪魔して、田中ビネー知能検査をとらせてもらいました。これが私の臨床現場デビューとなりました。みっちりと事前練習をおこなって臨みましたが、実際には上手くいかないことも多々ありました。痛感したのは「一般性を踏まえた個別化」の意味です。

準備として読んでいた教科書に記された発達障害は、個々人に現れる特徴の最大公約数的表現であり、無論間違いはないし合っています。事実、こんな人がくるのかな、というイメージ造形にはとても役立ちました。ですが今回初めて目の前に被検査者を迎えてみて、頭の中で蓄積されていた自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症の枠組みがガラガラと崩れていく感じを覚えました。微妙に違うんです。違うというか、大枠はいいんだけど少しズレがあるというか、組み合わせが違うというか。個別性ってこれか、と。

「知識が増えるとレッテルを貼りたくなる。貼って終わると差別に成る。貼った後に、今度はこれを剝がしていく作業が大事なんだ。」

精神医学の授業で教授がおっしゃた言葉です。傾向として大きく括る目と、今ここにいるその人を純粋にみる目の両方が必要なのです。

今は検査所見の作成に勤しんでいます。教授とのラリーは4回を超えました。まだOKがでません。検査結果から何が言えるのか、被検査者の特徴を活かすために我々はどう関わるべきかを考えています。客観性と主観性、事実と想像を頭に巡らせて、検査所見を完成させようと思います。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。