路上生活者自立支援センター(通称、路対施設)で心理相談員として働く年長の修了生から話をうかがった。路対施設とはいわゆるドヤ街にある安価の宿である。ドヤ街の説明はWikipediaコトバンクにお任せておく。

路上生活者自立支援の施設とはもはや名残で、最近では路上生活を経験せずに入所する人たちが増えているそうだ。

入所は福祉事務所から依頼されるのだが、行政としては稼働年齢層の方が相談に来た際にすぐに生保申請を受理するのではなく、一旦路対施設に入所させて就労に対する可能性を確かめたい狙いがある。働けるのか、厳しいのか。心理相談員はそのアセスメントを担当する。

アセスメント方法は、個室で行う心理検査や心理面接ではなく、対象者の生活の中に一緒に入り込み、会話や行動観察によって理解しようとするもので、修了生曰く、「だってロールシャッハテストで深層心理がわかったところで、その人がこの先自分で食っていけるかどうかについてはあまり意味がないと思っていて。その人がこの状況にいる経緯や背景、日常生活における認知の仕方や行動特性の方が、支援の形をつくる上では重要でしょ。」

入所者の多くは、はっきりした障害や疾患があるとはいえないのだが、どういうわけかこの社会で上手くいかない人なのだという。落ちこぼれ!怠け者!努力しろ!など、自己肯定感を失う言葉を容赦なく浴び続けてきたのではないだろうか。中には戸籍がなかった人もいるらしい、住民票ではなく戸籍だ。そんな環境を生き抜いてきた方々に対しては、外側からの援助も必要だが、内側からの支援はそれ以上に大切だろう。

夏に学外実習で訪れた児童心理治療施設でも感じたが、施設で生活している対象者を支援するには、彼らの生活空間に入り込み、自分もその一部になることが重要である。そしてそれは、相当の覚悟を持って臨まないといけない。中途半端はすぐに見抜かれ、彼らの傷をより深くする。

会社員時代に部署異動や転職等でがらりと環境が変わった時、一番気をつけていたのは、まずは郷に入れば郷に従うということ。変だなと感じることでも、とりあえずやってみて具合を確かめ、なぜこのやり方に至ったのかを突き止めて、それでもやっぱり変だと思ったら代替案を出すことにしていた。歩調を合わせて見る。馴染んでいるかよりも、本気で仲間になろうとしてるかを、周囲は自分が思っている以上に察知しているのだ。

世の中には色々な人がいる。そして人は皆敏感だ。まして心理相談の対象になるような人は殊更だ。理解しようと本気で身も心も寄せない限り、対人援助なんてできないのだと思う。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。