精神科医で司法精神医学と犯罪者心理学が専門の教授は、今でも法廷や病院で司法鑑定や精神治療をガンガン行っている現役バリバリの先生です。授業で聞かせて頂いたお話は、どれも臨場感に溢れていて興味深かったです。
CASE:性犯罪
「性犯罪者の理解と処遇」という講義の中で、「性犯罪のサイクル」を教わりました。先生は性犯罪を犯した方にこのサイクルを見せて、自分の心理や行動の変化の過程を認識してもらい、再犯防止教育を行うようです。下記をご覧ください。みなさんは、どのフェーズが気になりますか?
通常の日常生活にきっかけとなる出来事(刺激)が起こる→感情の溜め込み→犯罪の空想→犯罪の計画(準備的行動)→犯罪の実行→一時的な罪悪感→合理化(正当化)→日常生活へ戻る
私的には、感情の溜め込みから犯罪の空想への遷移がひっかかるのです。
犯罪を犯す人にもそうでない人にも、生活していれば嫌なこと(刺激となる出来事)は身に降りかかってきます。大切なのは「どう対処するか」、つまりコーピングが重要なのです。
コーピング(ストレスコーピング)とは、ストレス反応を低減することを目的とした認知的または行動的な対処をさします。心理学者のラザルスは、気晴らし・静観・回避などの「情動焦点型」と、ストレッサーそのものを解決しようとする「問題焦点型」に分類しました。これらのコーピングは相互に促進したり抑制的に影響し合うので、ひとつのやり方ではなくて、複数のコーピングを持って、柔軟に使い分ける必要があります。
性犯罪者のコーピング特徴として、感情の抑圧や、犯罪を空想するファンタジーへの逃避などの傾向があるといいます。対処できずに溢れている状態で更なるストレスが加わり、耐えきれなくなって実行に至るのです。違ったコーピング方略を獲得できていたら、罪を犯さずに済んだかもしれません。
嫌な出来事に対して自分はどんなコーピングを行っているか、書き出してみると数個は出てくるはずです。しかし、今まではその方略で対処できていても、例えば加齢や環境変化によって通用しない場合も出てくるでしょう。今もっているコーピングスキルでストレスに対処できなくなったら、セラピストが新たな方略獲得の支援をしますので、心理相談室を頼ってください。
CASE:殺人
院生室の書籍棚にあった「殺戮者は二度わらう(新潮45編集部編)」を年末に読み、性犯も殺人も一線を越えた行動をとるという意味では似ていて、殺人の場合はコーピング以上にアンガーマネジメントが重要だと感じました。
アンガーマネジメントの目的は、怒りが深刻な問題にならないように上手く制御し管理することにあります。誰であっても、一度タガが外れて勢い付くと、そこから元に戻るのは至極困難です。突き進むという選択肢しかなくなってしまうのです。
登場する9人の殺人犯は、最初から常軌を逸した人物ではなく(精神的未熟性や反社会性パーソナリティ傾向などは認められます)、契機となるストレスフルな出来事および突発的で衝動的な怒り感情に対しての適切な認知と行動がとれていませんでした。
人を殺しちゃいけないとか、犯罪に手を染めてはいけないなどの常識は、みんな持っています。けれど、嫌な出来事などで沸き起こる感情の扱い方を間違えると、倫理観なんて簡単に吹き飛びます。自分の認知や行動の特性を知り、自分自身の偏見を認め、自分にとって適切なコーピングやアンガーマネジメントテクニックを身につけておくことが、一線を越えないお守りになるでしょう。
犯罪学における臨床心理学の関与は、犯罪者の心理鑑定、犯罪行動特性の理解に基づく捜査(プロファイリングなど)や防犯、供述の心理学的評価、犯罪者・被害者へのメンタルケア等があります。今冬には、保護観察所での学外実習が控えており、ネットや書籍ではおおっぴらに開示されない情報を直に触れて感じてきたいと思っています。