LINEのテキストチャットを使った心理支援の勉強会に参加してきました。昨年実施された行政事例を紹介していただく中で、今の世代のコミュニケーションメディアは、圧倒的に「SNS>電話」であることが示されていました。

電話が苦手な若者たち

まあ、わかりますけどね。声色なんて言い方もあるように、声は感情をまとっているので、電話だと相手のリアルな感情をダイレクトに受けることになります。物心ついた頃からLINEのような短文かつターン性のあるコミュニケーションに慣れている今の若い人には、電話・スカイプ・対面などの刺激量の多い手段は、過剰負荷に感じてしまうのでしょう。

私だって文字で済ませられるものならそうしたいし、電話は少し気が重くなります。これは若者に限ったことではなく、ある程度はみな同じなのだと思います。

苦手なんて言ってられない

私が営業職として仕事をし始めた00年代、取引先の面々は自分よりだいぶ年上のおじさんやおばさんでした。メールでのやり取りが通じない方も多く、電話か対面で折衝しなければなりません。仕事なので苦手だなんて言ってられません。若造の私が相手してもらうには、彼らの得意な土俵に上がるしかないのです。社内の先輩や同僚の所作をぬすんだり、上の世代の人たちが生きてきた時代背景・言葉使い・礼儀作法・身だしなみ・カラオケの選曲(笑)など、いろいろと調べて取り入れていきました。相手に合わせることで道が開ける体験となりました。

今の若者を対象にした心理支援を考える時、私たちは彼らの視点に立たなければなりません。

LINEの特徴

勉強会を通じて、LINEでは古来の心理面接はできないけど、心理支援は充分にできることがよく解りました。

例えば対面での心理面接なら、クライエントからの「どうしたらいいですかね?」の問いに、「どうしたらいいか聞きたくなるような感じなんですね…」なんて、内省を促すような返しが有効な場合があるのですが、LINEでこれをするのは総じてよろしくない。タイムラインに同じ文言が続くと陳腐に見えて、相談者は興醒めしてしまうのです。共感的で支持的なメッセージを、はっきりと短文にして伝えることが必要です。

対面では、相談室に来室することがその人の心的困難の大きさの証拠になるのですが、LINEでは、日常的で誰もが疑問に抱くようなレベルから、建設的な対話になりにくいレベルまで、幅広いニードがやってきます。現実的なアドバイスをしたほうがいい場面、話し相手になっていればいい場面、心理療法的アプローチを仕掛けた方がいい場面など、ニードや状況を素早く見極めて、立ち位置を切り替えて対処することが重要です。

また、緊急性の高い場面では、相談者から名前や住所を聞き出す粘り強いやりとりが必要です。テキストチャットから電話での応対への切り替えを試みることもありますが、匿名性の保障が失われることや電話への苦手意識のため、なかなか難しいようです。可能性と限界の中で、やれることをひたすらにやりきる姿勢が求められます。

勉強会でのロープレ実習を通じて、短文に想像力を働かせて力動をみようとすると、なんだかモニター先の相談者へ潜水していくような(ハチワンダイバーのような)感覚に陥りました。LINEでの心理支援は、対面や電話以上に時間も労力もかかりますが、訓練を重ねていきたいと思います。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。