実際に自分が心理面接を行い心理検査をとるようになり、部屋の設えやセラピストの関与の仕方が、クライエントへ及ぼす影響について考えさせられています。

部屋の設えでいうと、例えば椅子の向き。セラピストとクライエントが真向かいに座るのか、90度の角度で座るのか。たかが椅子の位置くらいとお思いかもしれませんが、実は多くの人は、真正面は敵意、斜めは控えめな好意と捉えます。また心理検査の場面で、セラピストが早口で教示するのか、ゆっくり穏やかに語りかけるのかによっても、クライエントの解答は高確率で変わるのです。

部屋の設えやセラピストの関与の仕方に、絶対的な正解はありません。クライエントによって変えなければいけないし、同じクライエントでも昨日と今日とでは一日分の経験値が積み重ねられた別人と考えるべきなので、昨日の正解が今日の正解にはならないのです。

新行動主義者のウッドワースが唱えたS-O-R(Stimulus-Organism-Response)という考え方。彼は行動主義におけるS刺激-R反応という定式の間にO生活体を挿入しました。ある刺激に対してどのような反応が生じるかは、生活体の状態によって変化する、つまり「行動主義はS-Rで人間を理解しようとするが、刺激に対する人間の反応はそんな単純なものではない」と反証しました。

S-Rで片付けられたらどんなに楽だろう。いかに人間が複雑で繊細な生き物かを思い知る毎日を過ごしています。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。