「サッカーうまい人は、カウンセリングもうまい。」

“えっ、どういうこと?”同年代の新任教授が何を指してそう言っているのか、最初はよくわからなかった。

「構造化されている認知行動療法では、全セッションのうち今はどこら辺にいて、クライエントの状態はどんな感じで、この後どうなっていきそうかを見立てながら心理面接を進めていくわけで、ほら、サッカーに似てない?」

つまり置き換えれば、90分という試合時間の中で、今の時間帯は攻めるのか守りに比重を置いた方がいいのか思案したり、マッチアップしている相手は何を考えてプレーしているだろうかと想像したり、この後ピッチ上に流れてくる展開を読んだりする、ということだ。

会社員時代、メンバー育成の観点で監督業と管理職を重ねて考えたり、個人で戦えない者はチームでも戦えない、などのサッカーの名言を”職場でも同じだな”と感じたりはしてたけど、いやはや、サッカーと心理面接とは。監督じゃなくてフィールドプレーヤー視点で比喩しているところが臨床っぽい。

スタンフォード・ブリッジにほど近いクリニックで、本場英国の認知行動療法を永く行なってきた教授の着想が、とても面白い。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。