グループ・スーパービジョンでお世話になっているバイザーは「大当たりは少ないけど、的確に返す」セラピスト。打率は8割を超える。曖昧なコースに投げられたボールも、舌を巻くバットコントロールで巧みにセンター前へ弾き返してくる。

昨年多くの講義で関わり深かった教授は「理解が及ばない返答も多いけど、しばしば大当たりがある」セラピストだった。バレンティンがもつ日本記録を塗り替えるほどに本塁打を打つが、その分、たくさんの空振りもある(バレンティンに空振りが多かったかどうかは未調査)。

心理屋は投げられた言葉に対して、言葉で返す。心理屋を打者に例える時点で間違っているのだけれど、セラピストにもスタイルがあるという話。スタイルを辞書を引くと「固有の考え方や行動の仕方」と書いてある。自他共に認められる個人の特徴を言語化したもの。

自分で自分をみつめると、ネガティブな部分がクローズアップされがちだ。他者からもらう、自分のポジティブ面を頼りに探してみるのも一手だと思う。

以前、友人は私を「そっち側に行かないという安心感がある人」と評した。わかる。私はそっちに行ってみたいけど行きたくないと思っている人間だ。確実に傷つくし、戻ってこれないんじゃないかという怖さを感じている。そうした感情は人として当然だと思う一方、自分の課題でもあると認識している。

ある教授から「あなたは障害者や精神病患者をそうじゃない人と同じ土俵でみるのね」と褒め言葉で言われたことがある。確かに、どんな特徴を持とうが同じ人間だと思うきらいがある。公平さみたいなものは自分のひとつの特徴かもしれない。

ひとつかふたつくらい、自他共に認められるポジティブな特徴を言語化できているといい。それがあなたのスタイル。ないものよりも、もっている資源にフォーカスして、大切に育てよう。スタイルは変化していく。経験、加齢、生来性格など、様々な要素が絡み合う。決めつけすぎず、また固執しすぎずに、変わりゆく自分を愉しんでいきたい。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。