臨床心理学の教授は、小説を読めと奨めます。

本の中の物語は、読み手が活字を心象に変換し、それを自分の内側に描映することで進行します。心理面接も似ています。クライエントが発する情報から、セラピストはクライエントが体験した世界を想像するのです。他者のことを100%理解することなど不可能なのですが、準拠枠を豊かに耕しておくことが理解の一助になります。小説が準拠枠に与える影響は大きい。特に若い時に多くの珠玉の小説を味わえておけるといいような気がします。

「本を読むときに何が起きているのか」
ピーター・メンデルサンド著

本を読むときに私たちが見ているもの
図解による現象学

ことばとビジュアルの間、目と頭の間

重要なのは単語の文脈である。ひとつの単語が意味するものは、その周囲にある単語に左右される。

物語は省略によってより豊かになる。

カフカは「変身」の装丁が虫の外見になることに強く反対した。彼は読者に、内側から外側を見るように、虫を見てほしかったのではないか。

小説は、世界についての哲学的な解釈をさりげなく論じる。小説は、存在論、認識論、形而上学を、推論あるいは議論する。いくつかの小説は、世界は見えているものだと推論する。既知の脈絡をからかったり、混乱させたりすり小説もある。しかし読者が、その作家の真の思想を見つけるのは、その小説が、知覚をどのように扱うかという現象学においてである。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。