「心に残っている映画を3本挙げよ」と問われたら、19歳の頃に観た「ギルバート・グレイプ」を出さないわけにはいかない。ジョニー・デップ演じる主人公がとらわれから一歩踏み出す物語なのだが、主人公自身も依存性パーソナリティ障害でイネイブラーの設定だったとは、この本を読むまで気がつかなかった。
パーソナリティ障害の問題は、うつ病・自閉スペクトラム症・引きこもり・依存症などとの合併も多いが、基本的にそれ単体で存在するものであり、特異性がある。見分けることが目的ではないが、見立てられる目は養っておきたい。近い将来に臨床現場で確実に出会う人たちだ。
「パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか」岡田尊司著
パーソナリティ障害の共通点は、「自分に強いこだわりをもっている」ことで、自分に囚われている。また「とても傷つきやすい」面があり、健康人には何でもないひと言や素振りに侮辱や悪意を感じ取ってしまう。これらが引き起こす困難は「対等で信頼し合った人間関係を築く事が難しい」ことにある。
診断の要件
・本人あるいは周囲がそうした偏った考え方や行動でかなり困っているかどうか(本人は案外困っていなく周囲が困っていることが少なくない)
・青年期もしくは成人早期には始まっていて、薬物や他の精神疾患などの影響で生じたものではない
A群 奇異な行動を示す 妄想性/ジゾイド/失調型(スキゾタイパル)
B群 感情的で派手な行動 境界性/演技性/自己愛性/反社会
C群 不安や恐怖を感じやすい 回避性/依存性/強迫性
何も信じられない人々 妄想性(猜疑性)パーソナリティ
親密な関係を求めない人々 シゾイド(統合失調質)パーソナリティ
頭の中で生きている人々 失調型(スキゾタイパル)パーソナリティ
愛をむさぼる人々 境界性パーソナリティ(ボーダーライン)
主人公を演じる人々 演技性パーソナリティ
賞賛だけが欲しい人々 自己愛性パーソアンリティ
悪を生き甲斐にする人々 反社会性パーソナリティ
傷つきを恐れる人々 回避性パーソナリティ
一人では生きていけない人々 依存性パーソナリティ
義務感の強すぎる人々 強迫性パーソナリティ
境界性パーソナリティ障害
最高と最低の両極端の間をめまぐるしく変動する。それは、気分と対人関係において、顕著に見られる。うつ状態にもなるが、持続的ではなく、間欠性であるのが特徴。
失調型(スキゾタイパル)パーソナリティ障害
奇妙でユニークな思考や直感が、常に頭の中でうごめき、生活や行動に影響を及ぼしている。風変わりに映る。スキゾタイパルは「超越的ま存在や非論理的な思考」に親和性をもち、アスペルガーは「客観的で観察的で解剖学的な物の見方」をする点で違う。本人のペースを尊重する。社会へのコーディネーター役が必要。世間との交わりを最小限にする「引きこもり」は意外にも、破綻を防ぐには有用な方法である。
演技性パーソナリティ障害
天性の演技者にして嘘つき。他人を魅了し、関心や注意をひくためなら、自分を貶めるようなことや傷つけることも、平気でやってしまう。その点で、自己愛性よりも不安定さを含んでいる。空想と現実のギャップを埋めるために嘘をつく。虚言が引き起こす相手の反応に本院んは酔いしれるのである。幼少時代に両親の性に直面した場合などによく現れる。仮面を無理に剥がさない、併発するパニック障害などは、援助者は振り回されず、自分で対処させるような支援。
回避性パーソナリティ障害
失敗や傷つくことを極度に怖れる。美人でもくすんだ印象を受ける、輝きがない、自ら輝きを抑え込んでいるようなところがある。支援の場面での否定的な言い方は禁物。
映画 ギルバート・グレイプ
無気力な母に縛られた依存性パーソナリティ障害の子ども
母の依存性はいうまでもないが、ギルバート自身も家族への献身という口実の元に自分の行動を縛っている。ラストシーンで、家と亡くなった母を一緒に燃やしている。依存という桎梏(しっこく)からの解放がもたらすカタルシスと悲しみをよく表現している。