「それではこれから10枚の図版を見てもらいます。図版にはインクを落として折りたたんで偶然に出来上がった模様が描かれています。模様は偶然にできたものなので、何に見えても構いません。模様を見て、見えたものを言ってください。
これから図版を一枚ずつ渡すので、なるべく両手で持って、自由に見てください。ストップウォッチを使用しますが、制限時間はないので、気にしないでください。ここまでで、何か質問などありますか」
片口式ではこのような教示文から始まる。
ロールシャッハテスト。聞いたことのある名であろう。人格特徴の把握や理解を目的として実施される心理検査である。インクを落として折りたたんだ時に偶然に出来た模様を見て、何が見えたかを答えてもらう。
検査後、反応時間や回答をスコアリングし、そこから思考・感情・対人関係・自己認知などのパーソナリティ構造を捉えようとする。スコアリングの仕方は流派によって異なる。大学院では世界基準のエクスナー式ではなく、日本独自の片口式を学習した。反応領域、反応決定因、反応内容で分類し、それぞれに意味づけを施す。
この検査のメリットは、被検者の無意識的側面が捉えられる部分である。虚偽回答がしにくいのもいい。一方でデメリットは、検査者の主観的解釈に委ねられる点である。検査の実施や解釈には熟練が必要だ。
先日、後輩に被検者役をお願いして、実施の練習をしてみた。とても難しかった。複数回答の進言ができなかったり、非言語情報の収集、質問の的確さなど、足りないことばかり。準備不足と経験不足は火を見るより明らかだった。
心理の毛色をもつ職業は、精神科医、看護師、精神保健福祉士など多種ある。業務独占資格ではないため、極論を言えば誰でも心理っぽい仕事をすることは可能だ。心理療法、例えば認知行動療法などは皆が使っている。その中で臨床心理士のアイデンティティは何かと問われたら、それは心理検査がとれることにあろう。
現場で仕事をされている心理士さんに「実施頻度が多い心理検査は何か」と質問するようにしている。福祉・教育領域では「WAIS」「WISC」「田中ビネー」などの発達検査、医療領域ではこれにプラスして「ロールシャッハ」「バウムテスト」「BDI」「CES-D」、高齢者分野では「HDS-R」「MMSE」などの認知症検査が挙げられた。マスターすべき検査は沢山ある。
2年間の大学院生活も3/4が終わろうとしている。夏の間に修士論文をある程度終わらせて、秋からは現場で即戦力として働き始められるよう、検査技術の成熟に務める。座学だけではどうしようもない分野なので、対人練習や初見作成などができる環境と時間が許されているこの時期に、しっかりと仕上げておきたい。