いつぞやの勉強会で、地域包括支援センターで仕事をされている心理士の先生がおっしゃっていた。「心理職は現場で得意のアセスメントだけしていればいいわけではない。専門以外の仕事もやらないとチームの一員として認めてもらえないし、専門家としてある事象に対しての心理学的理論に基く解説を求められた時には即座に応えなければならない。例えば動機づけとか、みなさん説明できますか?」

うん、自信ないな。

動機づけとは

例えば、ある人が冷蔵庫から水のペットボトルを取り出したとする。なぜ彼はその行動をとったのだろうか。「水を飲みたかったから」「喉が渇いていて水しかなかったんだろ」「なんとなく冷蔵庫開けてなんとなく水のペットボトルとったんじゃね」。全部◯なのだが、行動心理学の教科書に当てはめると全部△である。

行動を解明しようとするとき、大概の人は「気持ち」の推測から始めようとするが、そうした気持ちになる前提としての「身体状態」と、水のペットボトルという「刺激」の存在を忘れてはいけない。この3つはワンセットだ。欲求(喉が渇いた)・動因(水を飲みたい)・誘因(水がある)が揃うことで行動は発現する。この一連のメカニズムを動機づけという。

種類と特性

動機づけには、内発的動機づけと、外発的動機づけがある。

【内発的動機づけ】賞や報酬に依存しない(明示的な誘引が存在しない、行動すること自体を目的とする)動機づけ
外発的動機づけ】行動に伴う賞や報酬に依存する(自己の外部にある誘引との接近や獲得を目的とする)動機づけ

魅力的な賞や報酬(外的報酬、俗語でいえばニンジン)を用意すれば動機づけ、つまりモチベーションは高まる。しかし外的報酬のための行動で止まっていたら、毎回用意しなければいけない。自発性を生むにはどうしたらいいだろう。

興味深い報告がある。エンハンシング効果と呼ばれるもので、内発的動機づけが低い者に外的報酬を与えると、はじめは外的報酬のために課題に取り組んでいたのに、やがて課題そのものの面白さに気がつき内発的動機づけが高まるというのだ。課題そのものへの興味が湧いてきたタイミングで褒めたりその状態を表出させることで、内発的で持続可能なモチベーションに切り替えさせることができる。

一方で、アンダーマイ二ング効果という現象もある。内発的動機づけが高い者に対しては、外的報酬を与えることで、内発的動機づけが低下する可能性がある、というものだ。例えば職場で、仕事そのものにやり甲斐や面白みを感じていた社員が、社内評価や報酬が与えられ過ぎたことで、いつの間にか評価ありきの仕事ばかりしてしまいモチベーションが下がる、など。思い返せば身に覚えがあるし、そんな感じになった同僚もいたな。

外的報酬は薬にも毒にもなる、という話である。

臨床現場では人に動いてもらいたい場面がある。対象となる人のコンディションやシチュエーションをきちんとアセスメントして、ニンジンの使い方や外すタイミングを見極めたい。相手に動いてもらいたいなら、自ら相当な骨を折る必要がある。

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似たような話として、子どもの学習意欲に絡めた原因帰属についての過去記事もリマインドしておきます。

https://note.com/embed/notes/n16b538349972


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。