「不安症」という病をご存知でしょうか。
不安症とはその名の通り不安を主症状とします。そして不安から生じる身体症状(動悸・発汗・ふるえなど)が危機的な状況でなくてもあらわれて日常生活を脅かします。不安症における代表的な疾患として「パニック症」「広場恐怖症」「社交不安症」などが挙げられます。
その中でも「全般性不安症」は、上記疾患からは外れ、しかし当人に起こる不安は性格特性である「心配性」の粋を凌駕し、広範囲に渡り、機能の障害を有し、6ヶ月以上継続している場合に診断される精神疾患です。
不安という感情は何かしらの原因があって起こるのが一般的なのですが、全般性不安症はそれが特定されにくいのがつらさの根幹であり回復への障壁になります。ゴールが見えない中で折れずに走り続けるのは容易じゃありません。
全般性不安症は気分障害という点ではうつ病に近いのですが、以下の点で異なります。新米セラピストには見立てがとても難しい。
実際はこんなに綺麗に線を引けないですよ。あとは、クライエントが纏っているオーラが違う気がします。抑うつの方は暗くどんよりした雰囲気で、全般性不安症の方はそれがないという印象です(もちろん個人差ありますけど)。症状のつらさを言葉にすると「うつうつしい」「落ち込む」「悲しい」など、うつ病も全般性不安症も似たような単語になるので、クライエントの語りを表面だけで聞いていると区別がつきません。
支援は薬物療法(身体の緊張や不眠は抗不安薬のベンゾジアゼピン、不安に対してはSSRIなど)と、心理療法(認知行動療法による認知変容を狙ったものと、呼吸法・自律訓練法・漸進的筋施緩法などの身体に訴えかけるもの)が有効とされています。不安の対象が特定されにくいため、支援は長期化することが多いです。
心理療法での目標は、不安に対して鈍感になること。不安になることを止められれば解決なのですが、人間である限りそれは無理でしょう。ならば、湧き起こる不安感情に対して、払うのではなく脇に置き続け、そのうえで今やる行動に意識を定めていく。認知行動療法でいえばマインドフルネスのような考え方です。気分本意ではなく、目的本位に動けるようになることを目指します。呼吸法・自律訓練法・漸進的筋施緩法を組み合わせることで、より動きに移しやすくなるでしょう。動きを取り続けられることが日常生活を送る上で大切なことだと考えます。
認知行動療法の汎用性の高さはすごいなと。精神科だけでなく生活習慣や痛みなどの問題に関わる医療全般、企業団体でのメンタルヘルス管理、そのほか福祉、教育、司法の領域から、より身近な健康管理やストレスマネジメントに至るまで活用されています。当然、万能ではないのですが、今の臨床心理でこれを使えないとクライエントへの最善の支援は語れないと思います。研磨せねば。
全般性不安症は一朝一夕で改善する病気ではありません。支援が開始されてからも、セラピストはクライエントと共に辛抱強く歩むことになります。