心理学で記憶というと、まずはその過程が取り上げられる。記憶の三段階、つまり記銘ー保持ー想起である。ヒトはすべての出来事を記憶することはできない。リハーサルと呼ばれる想起を頻発させる行為や、情報を感情や身体など五感に結びつけることで、特定の記憶だけが残されていく。

#部活の思い出 と投げかけられて、すぐに脳裏に浮かぶシーンがある。

中学三年生、サッカー部、秋の県大会。勝てばベスト8の試合に、終了間際のチームメイトのミスからの失点で、僕らは負けた。同じ左サイドで戦っていた僕は見ていた。その瞬間、彼は迷いのままにプレイしたのだ。

両チームの力はほぼ互角で、緊迫の糸が張り続ける試合展開だった。

後半はずっと攻め込まれていた。転がってきたボールを彼がタッチラインに蹴り出そうとしたとき、味方のDFが「触るな!(触らないでそのままボールを出してマイボールのスローインにしろ)」とコーチングした。彼はその声に反応してしまい、キックは物凄く中途半端になり、タッチを割らなかったボールは相手に繋がれゴールへと運ばれてしまった。その直後、試合終了の笛が鳴り響いた。

彼はめちゃくちゃ泣いた。ごめん俺のせいで、とずっと謝っていた。いや、勝てなかったのは決勝点を取れなかった俺たちFW陣のせいでもある。みんなであと一歩が乗り越えられなかったからである。彼を責める仲間は誰一人としていなかった。みんなわかっていたのだ、彼も我々と一緒に熱く戦っていたことを。

なんでこんなに記憶に残っているのだろう。初めての県大会だったこと、体育祭を途中抜けして全校生徒の注目を浴びながら会場へ向かったこと、中学最後の大会で意気込んでいたことなど要因は沢山あるが、「迷いながらやるのはよくない」「勝敗以上に大切なことがある」と体感したのが大きい。今でも選択に迷った時や勝負に負けた時にはこの映像が呼び起こされる。私の人生の教訓になっている。

人は迷う。迷うのが当然だ。けど、決めたら迷うな。決めたら自分を信じて躊躇なく進むこと。その決定でよかったかどうかは、進んだ後に振り返ればいい。

全力でやろう。うまくいくことがあれば、うまくいかないことだってある。人生においては後者のほうが多い。全力でやれば後悔は少ない。それが重要なんだ。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。