高齢者領域の心理の仕事のひとつに、高次脳機能検査があります。わかりやすいのは認知症検査ですね。記憶、注意、言語、視空間認知、実行・前頭葉機能や精神の状態などを評価します。

大学院では、WAISやロールシャッハテストなどいわゆるオーソドックスな心理検査しかやらなかったため(本当はもっと色々な検査を教えたいんだけど授業のコマ数等の問題で仕方ないんだよ…と教授が嘆いてたな)、知らなきゃ始まらんということで、今回の騒動前に外部の有料勉強会に参加してきました。WMS-R、コグ二スタッド、リバーミード、WAB、FAB、CATなど、初見の検査器具も多くて面白かったです。(面白かったで終わっちゃダメだ、ちゃんと消化しなきゃ…)

講師の先生は、大学病院の神経内科で心理検査をとっているベテラン心理士さん。高次脳機能を解説する中でおっしゃった一節がとても印象に残りました。

「結局ね、基礎心理学に繋がっていくの。臨床心理は勿論大事なんだけど、基礎心理の認知、記憶、行動、知能あたりをどれだけ押さえられているかで、検査結果の解釈、所見の文面が随分と変わる。つまり患者の利益に影響するのよ。」

基礎心理学の重要性。大学院受験のために通った河合塾KALSの講師が、心理学概論の講座中に全く同じことを言っていたのを思い出しました。

心理学は、全般的な人間心理に焦点をあてる「基礎心理学」と、特定の人間心理に焦点をあてる「応用心理学」に大別できます。当然、この2つは強固に結びついています。臨床心理学は後者に分類される学問であり、精神障害、心身症、心理的な問題、不適応行動などに対する援助を目的としますが、基礎心理学の感覚、知覚、注意、記憶、言語、思考、推論、問題解決などが解っていないと、適切な援助になりません。

現場に出た今、身をもって実感しています。援助方針は臨床心理学の理論をベースにして考えるのですが、クライエントの症状はひとりひとり違うためカスタマイズする必要があって、その時に気をつけているのは「基礎心理学からは踏み外さない」ということ。「型破り」はいいけど「型無し(本当は形なし)」の手法は、百害あって一利なしだと思うのです。

仕事で使う高次脳機能検査。それを自分のものにするために、改めて基礎心理学から鍛え直します。今秋の資格試験の勉強にもなるので一石二鳥です。基礎がゆるいと安定しないし上に積み上がらないですもんね。頑張ります。

P.S.
基礎って地味で面白みがないですよね笑。重要性に気づくまで時間がかかる。サッカーで言えば体力づくり、グラウンド走るの嫌いだったなあ。今思えば、私は大学受験で心理学部に合格できなくて、逆に良かったのかもしれない。10代の頃の成熟度では「基礎心理学なんてつまらない、これは俺がやりたい心理学じゃない」と一蹴して、真面目に取り組めなかっただろうな。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。