「ゆたか(豊か)」を辞書で引くと、満ち足りて不足のないさま、心や態度に余裕があって落ち着いているさま、と定義されている。

20代中頃までは、何も持っていない何者でもない自分が嫌で、金が欲しい、彼女が欲しい、称賛が欲しい、承認して欲しいとTHE BLUE HEARTSの歌のごとく貪っていた。でも不思議と、何かを手に入れても満ち足りた感じにはならなかった。

ここに、心理学者マズローが唱えた「欲求階層理論」がある。

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マズローは人間の欲求を、低次なものから高次なものまで5段階に分類した。①から④を満ち足りていないものを満たそうとする欠乏欲求、⑤を自己のあるべき姿を模索し成長を求める成長欲求とよび、区別した。基本的には下位の欲求が満たされないと、上位の欲求は出現しないとしている。

この理論に沿って考えると、欲を満たしてもどこか満ち足りなかったのは、さらに高次の欲求が現れていたからである。40代を迎え、欠乏欲求が完全に満ちているかといわれれば怪しいもんだが、昔よりは固執しなくなっている。

成長欲求に関しては、自己実現ってどういうこと?理想とする自分って何?と疑問は絶えないのだが、まあいいか、したいことをしようと適度に手放せるようになった今の自分は、ぼちぼち「ゆたか」なのかもしれない。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。