インテーク面接とは、医療機関や相談機関にやってきたクライエントに対して行う初回面接のことを指す。「インテーク(intake)」は、動詞であれば「受け入れる」名詞であれば「摂取」を意味する。困りごとやその周辺情報をお聞きし、見立て、インフォームド・コンセントを行い、支援ないし治療同盟を締結する。
機関ごとの違い
現場に出て、メンタルクリニックで行うインテーク面接と、大学院の心理相談室で行っていたインテーク面接に様相の違いを感じた。聴取する項目(外見)は同じだが、聞きながら考えている事や情報のまとめ方などの構造(中身)が違う。なぜだろうと考えたとき、これは「情報の繋ぎ先」の違いから生まれているものだと気がついた。
医療機関の場合、それは精神科医になる。現病歴や生活歴を読めば輪郭がつかめ、家族歴や既往歴で補足すれば診断がつけられる情報が最良とされる。インテーク面接の目的は、医師が診断と治療方針を決定する判断材料の聴取という側面が大きい。翻って教育や福祉機関では、生活の改善や社会活動への参加が念頭に置かれる。産業であれば職務の遂行、司法であれば社会復帰などになろう。いずれの機関で行うにせよ、クライエントの利益に繋げる姿勢で臨めばいいのだが、情報をまとめる際には、これを誰が見て何の参考にするのかを意識する必要がある。
所用時間と事始め
インテーク面接に費やせる時間は限られている。適切に、可能であれば効率よく情報を聴取したい。例えば一番最初になんと声を掛ければスムーズに事が運びそうなのか。神田橋篠治は名著「追補 精神科診断面接のコツ(1984)」の中で、以下のように提言している。
「きょうこちらに来られるようになったわけを、まず、きかせてください。」
理想的には第一声は疑問文でないことが望ましい。問う人/答える人の役割ができて、面接試験や口頭試問のような雰囲気が生じるのを避けたいからだ。
60〜90分の時間を設けられるならこのような言葉が最適だろう。事実、大学院の心理相談室ではそうしていた。しかし、私が勤めるクリニックでは、30〜45分で情報を聴取することが求められている。問う人/答える人を明確にして開始しないと、時間内に聞きたい項目を網羅できないという現実的な問題がある。「今、お困りになられている事は何ですか?」大抵はこう口火を切るようにしている。
見立てる
インテーク面接は限局的に言えばカウンセリングではないので、こちらが主導権をとり、困りごとの始まり、思い当たる誘因、来室までの経緯などを聞いていく。
クライエントの話はしばしばまとまりが悪い。絡まった糸をほぐすように、半ば構造的に、時間軸に沿って聞いていく。とはいえアンケート調査や尋問のように機械的にやってはいけない。気持ちに寄り添いつつ、必要情報を時間内に聴取するという、ある意味で二律背反の動作を同時に実行するのは物凄く難しい。
聴取(Subjective)や観察(Objective)から得た情報を並べながら、どのような力動で何が起こっているのかを、心理の専門家という立場から見立てていく。「心理学をやっていると世の中全てを心理学で解釈したくなるものだけど、それは詭弁であり傲慢である」とは誰かの言葉だが、本当にその通りで、ジョージ・エンゲルが提唱した生物・心理・社会モデル(bio-psycho-social model)で考えること、つまり三権分立を意識しながら見立てることが大切である。発症要因はひとつであることの方が少ない。大抵は年齢、遺伝、トラウマ、学習、社会、家族システムなどが複雑に絡み合っている。
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よいインテーカーになるには、知識と経験を積み、スーパーヴィジョンで振り返ることが大事だと感じている。「沢山の本を読んだからといって良い心理士になれるわけではないけど、本を読まない(学び続けない)心理士は論外だよ」と、ある先生がおっしゃっていた。頭でっかちは良くないが、頭が空っぽではなお悪い。理論と実践を繰り返しながら、一回の機会を最大限に血肉にするために、準備から振返りまでを丁寧に研鑽していきたい。
参考:http://human-relation.net/psychology/intake/
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