社会心理学的に「差別」を語るには、まず内集団と外集団の説明から。自分が所属していることを意識した集団を内集団、それ以外の集団を外集団と呼ぶ。「所属を意識している」ことが重要で、単に所属しているだけでは、つまり帰属意識が低い場合はこれに当てはまらない。人は内集団には好意的態度を、外集団には非好意的態度をとることが証明されている。

特定の集団への所属を強く意識したとき、我々は「社会的アイデンティティ」をもつようになる。社会的アイデンティティとは、自分が何者であるかを、所属している集団や組織を基準に認識することをいう。やがて、自分が所属する集団(=内集団)に生じる出来事を、我が事として感じるようになる。内集団が褒められれば自分が褒められたことのように喜び、内集団が貶されれば自分が貶されたことのように怒る、といったように。

我々には自尊感情が備わっているため、自己評価を高く維持したいという欲望がある。社会的アイデンティティをもつ場合では、内集団を外集団より高く評価することによって、自己高揚を達成することができる。この外集団との対立構造が集団間差別を生みだすことになる。

さて、対立する集団間の葛藤は解消させることができる。

ひとつは双方が協力せざるを得ない状況を設定すること。2つの集団が融合して1つの内集団になるのである。もうひとつは自分が外集団の中に入り、理解し、その集団を内集団だと意識変容すること。人は朱に交われば赤くなるのである。

COVID-19は世界中に混乱と不安をもたらしているが、これは世界が1つの内集団になれる好機でもある。70億人がお互いの手を取りこの脅威に一枚岩で立ち向かい、またその一方で、同じ地球生命体の一員であるウィルスへの理解と共存を探る。「ONE TEAM」の精神をラグビーだけで終わらせるのはもったいない。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。