社会生活を営むには、他者とのコミュニケーションは不可欠です。ひとりでやれる範囲は限られていますからね。時には交渉や説得の場面もあるでしょう。懇切丁寧に話をするのが前提として、そのうえで技術を知っていれば鬼に金棒です。
フット・イン・ザ・ドア テクニック
誰もが承認するような負担の軽い要請が受け入れられた後に、目的としていた要請を承諾させる方法。
玄関先でセールスマンが足をドアの隙間に入れて、グイグイっとねじ込んでいって、家の中に上がり込むイメージですね。実際のやりとりとしては、こんな感じ。
このテクニックには「一貫性の原理」が利用されています。一貫性の法則とは、自らの行動・発言・態度に矛盾がないようにしたいと願う心理です。相手の提案にYESと応じたら、次の提案にもYESと言いたくなるのが人情です。
私にも経験があります。家の洗面所が水漏れしたとき、工事業者に依頼して直してもらったのですが、対応がとても良かったんです。その方からブレーカー修繕を提案されて、その場でお願いしちゃったんです。今思えば、もう少し検討してから返答してもよかった。ブレーカーの故障を未然に防げたと思えばいいのでしょうが、別にそのタイミングで施工する必要性はなかったなと。
説得者は、小さなYESを引き出したら、一気にいきましょう。被説得者は、流れに乗らず、要請ひとつひとつに対し別物として検討することで、不用意なYESを防げるといえるでしょう。駆け引きですね。
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ドア・イン・ザ・フェイス テクニック
誰もが拒否するような負担の大きい要請を行った後に、譲歩したように見せて、目的としていた要請をして承諾させる方法。
人は他者から何らかの施しを受けた場合にお返しをしなければならない、断りに対しては穴埋めをしなきゃ、という心理が働きます。この「返報性の原理」を利用した交渉術が、ドア・イン・ザ・フェイス テクニックです。
説得者は、松>竹>梅の提案を用意し、松から提案します。松はとてもじゃないができないけど、梅ならできるかな、という返答が期待できます。被説得者は、松だろうが梅だろうが、本当にこれで自分の課題解決になるのだろうか、松竹梅だけの比較で物事を考えていないだろうか、と自問自答する姿勢が必要です。
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この2つのテクニックは、臨床心理士試験や大学院入試にもよく出題されます。言葉が似ているから、どっちがどっちだったかこんがらがる笑。イメージと原理をセットにして覚えたいです。原理が違うのに「ドア」という同じアイテムを充てた命名者のセンスを恨みます笑。
交渉術って言葉、なんだか胡散臭いので嫌いなのですが、相手が仕掛けてくるなら、対応せざるを得ないですからね。好き嫌いとか言ってる場合じゃない。社会生活の中で自分の身を守るために、知っていて損はない心理学だと思います。
参考:「臨床心理士対策テキスト」ナツメ社(2020)