失敗が予想される状況で、実際に失敗する前に、自分に不利な条件があったことをあらかじめ表明しておき、自尊感情の低下を予防することを「セルフ・ハンディキャッピング」という。

「ダメかも…」と思っていれば、実際ダメだった時に「もともとダメだと(難しいと)思ってたから」という理由(言い訳)ができ、受けるダメージを低減することができる。でもこれ、必ずしも適応的な行動かといえば、そうでもない。確かにある程度の自尊感情は守られるが、遂行量が低下すること、自分に対する悪い期待が自己成就予言となり、失敗という結果に繋がりやすくなる。

成功させたいなら、失敗による傷つきに予防線を張るよりも、成功に近づく努力をしたほうが生産的だ。

週刊モーニングで連載中のサッカー漫画「GIANT KILLING」は、主人公である達海猛監督が弱小チームETUを勝てる組織・集団に変貌させていく物語である。私はこの漫画が大好きだ。作中では番狂わせを意味するジャイアントキリングという考え方がキーワードとなっている。印象的な台詞をひとつ引用しておく。

弱いチームが強い奴らをやっつける。勝負事において、こんな楽しいこと、ほかにあるかよ。(ETU監督・達海猛)

相手が強ければ「負けるかも」と思うのが普通である。そこから成功に意識を向けるにはどうしたらいいのだろう。受け入れることだ。「己の弱さを知るが初手」である。この際必要になるものは、①成功体験と②相手の視界に立つ事だと思う。

①成功体験が必要だ。何かを成し遂げられた経験がなければ、勝利をイメージすらできないだろう。いや、大層な成功体験なんていらない。受験勉強をしたら入試を突破できたとか、練習に打ち込んだら試合に出れたとか、ユーザーや取引先の利益を考えて仕事してたら社内評価が高まったとか、日常の中で実感した超個人的で小さい成功体験で十分だ。皆、この小さな成功体験をおざなりにし過ぎていると思う。成功体験なんて実は誰でも持っているものなのだ。

②強い相手であれば、彼らには「勝って当然、負けたら恥」というプレッシャーがあるはずで、相手は相手なりに悩んでいるものである。客観的に相手側の視界に立つという想像力。自分が相手の立場だったら何をされると嫌だろうか。そこに成功につながる糸口がある。

最後、本番では開き直れるかどうかだと思う。その状況を楽しめるかどうか。結果ではなく自分がしてきた準備を信じて物事にあたりたい。やれるだけのことはしてきた、あとはやるだけだという純度の挑戦心。この精神状態になれれば、最高のパフォーマンスが期待できる。

失敗を憂うよりも、成功のイメージを固定化し、今できる準備に注力しよう。

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cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。