パンツではなく「簡潔な/手短な」と訳されるBriefを冠した心理療法の話です。

ブリーフセラピーは、とにかく明るい未来をつくるための、短期で効果と効率を重視するケア手法です。従来の心理療法は「問題/過去志向」つまり、問題は何か、なぜ起こったのかを、過去にさかのぼることで解明しようとしていました。

これに対しブリーフセラピーは、問題の根源は複数要因が絡み特定困難、わかったとしても過去は変えられないものと考え、「解決/未来志向」つまり、クライエント自身がどうなりたいのか、どうなればいいのか、どう進んでいくのか、といった解決や未来に焦点を当て、思考と行動の変容を目指します。

手法は、解決志向型アプローチ(Solutin Focused Approach:SFA)やMRIアプローチ(Mental Research Institute)などいくつかあるものの、共通するグランドルールは次の3つです。

①もしうまくいっているなら、それを直そうとしない。
②もし一度うまくいったなら、またそれをする。
③もしうまくいっていないのなら、何か違うことをする。

私のブリーフセラピーの感想は「えっ、何を今更。仕事のアプローチと同じやん」でした。ビジネスマンと心理士という、パンツではなく二足の草鞋を履く私は、それ以前の17年間の会社員経験でこの基本的な考え方は当然のごとく履修していたからです。目新しさがないのは私の話であって、初見の人は目から鱗だと思います(私も最初に知った時はすごくシンプルでわかりやすい!確かに!と感動しました)。私の今のカウンセリングスタイルは、CBTを軸に精神分析や意図しないブリーフセラピー要素が混ざる折衷的カウンセリングです。会社員時代の思考プロセスが組み込まれるところに、オリジナリティがあるのだと自覚しています。

ブリーフセラピーの技法

言われて「これ技法なんだ」と気づいたのが、この2つです。

ミラクル・クエスチョン

クライエントの未来時間のイメージを扱う質問です。例えば「もし、ある晩に、あなたが寝ている間に奇跡が起こって、すべての問題か解決していたとしたら、あなたはどうしてそのことがわかるでしょう」「◯歳になった時に、あなたはどうなっていると思いますか」。この質問の意図は、理想的な状況と現在の状況では一体何が違うのかを探り、具体的に何があれば自分は理想的な状態だと言えるのか?を言語化することにあります。理想の自己イメージの解像度を上げて、目標の方向性を明確にすることができます。

例外探し

起こっている問題の例外を尋ねるものです。問題がなかった時や、問題があっても今よりもいい状態だったときの具体的な状況を尋ねます。例えば、朝起きれないと訴えるクライエントに対して「朝に起きれた日もありましたか?その朝はどんなふうでしたか?」「どうしてその日は起きれたのでしょうね」という具合に。そこで見付かった「例外」を、既に存在している解決の一部と考え、そこから更に解決を広げていくことを目指します。

他にも、リフレーミング/外在化/ビデオ・トーク/スケーリング・クエスチョンなど、名前がついてることも知らずに使っていた技法が沢山ありました。無意識に使っているということは、効果を私が感じているからでしょう。グランドルール①に則ってますね。

クライエントの3タイプ

クライエントのタイプによって対応を変えよ、とあえて言及しているのが面白いなと感じました。私はこれも無意識のうちにカウンセリングの最初の1分でアセスメントして実行していました。

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ビジター・タイプ

クライエントが問題や不満があることを表明していない、あるいは不満はあるが変化や解決を期待していないタイプです。対応は、コンプリメント(肯定的な態度で敬意を払い相手の存在を認める)程度にとどめます。薄氷を履むが如く、関係性が割れないように進めていきます。

コンプレイナント・タイプ

クライエントは不満があり困っている、また、解決がどのようなものかを話せるし、変化への期待もある。しかし、問題なのは他者であり、自分はむしろ被害者であると感じているタイプです。対応は、コンプリメントから例外探しの課題を出す程度にしておきます。

カスタマー・タイプ

クライエントは困っており、解決への期待を抱き、それを自分の問題だと捉え、解決のためには積極的に変化し行動することが必要だと考えているタイプです。対応は、コンプリメントからゴール設定を行い、具体的な行動課題を出していきます。

ブリーフセラピーの過程

どのカウンセリングスタイルにも大枠の型があります。ブリーフセラピーは型の強度が高いと感じます。だからこそ短期で効果と効率が得られやすいのでしょう。

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1.クライエントの話を聞く

面接の最初は「どうですか最近の調子は」から始めます。「それで?」「もう少し詳しく聞かせてください」「具体的には?」と聞いていきます。オウム返しや明確化は多用せず、クライエントが解決につながる言葉を発した時に効果的に使います。例外についても聞いておきます。

2.ゴールについての話し合う

問題が具体的になったら、ゴールについての話し合いに進みます。ゴールは本人の中にあるもので、外から与えられるものではありません。カウンセラーはゴールを与えるのではなく、クライエントの中にあるゴールを引き出すことに専心します。ゴールについての話し合いはそれ自体が治療的です。解決した暁にはどんなことが起っているのかを質問します。ミラクル・クエスチョンやスケーリング・クエスチョンを使います。

3.解決に向けての話し合う

ゴールがいくつか設定できたら、そこから実現の可能性の高いもの1つに絞り込みます。良いゴールが備えている要件は、以下の5つです。 

(a) 大きなことではなく、小さなことであること
(b) 抽象的ではなく具体的に、行動の形で語られていること
(c) 否定形(〜しない)ではなく、肯定形(〜する)で語られていること
(d) 測定しやすいこと
(e) 達成しやすいこと

絞り込めたら、ゴール達成後の状態を、もう一度イメージしてもらいます。

4.アドバイス・指示・課題を与える

課題は成功体験を得てもらうために出します。したがって、簡単なものから、1回のカウンセリングで1つずつ出していきます。

5.ゴール・メンテナンスをする

課題の中でうまくやれたことや新たな例外を確認し、それを維持する方法も確認します。 そして、例外や既にある解決の一部分を増幅し、例外がクライエントの生活の多くの部分を占めて、もはや例外ではなくなるようにしていきます。

まとめ

ブリーフセラピーは問題の原因を個人病理に求めるのではなく、自・他・環境との相互作用の変化を促して、問題を解決緩和していこうとする心理療法です。「原因が何か」ではなく「今ここで何が起きているのか」を重視します。結果的に短期間で終結することも多いですが、万人に即効性の側面があるかと問われれば疑問符です。ブリーフセラピーに端を発し、認知療法、インナーチャイルドワーク、精神分析、行動療法などに展開していくケースも多いでしょう。お困りごとに対し、何かしらの気づきや効果を得られるのは、安心してください、保証できそうです。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。