歯科医院スタッフ対象の臨床心理学セミナーに講師として登壇してきました。内容は、接客に活かせる知識と、自身のメンタル保全で構成しました。3時間の長丁場で退屈させないか心配でしたが、アンケート結果は上々で、ほっと胸を撫で下ろしています。

臨床心理学的な人間理解

接客に活かせる知識ということで、発達障害やパーソナリティ障害、うつ病の紹介をしました。対人職は風変わりなお客さんの対応に困りますよね。なんだろう、この人クセ強いな、みたいな。ひとつの方策として、上記の視点からの人間理解があると思うのです。例えば発達障害といっても種類があるし、症状は個々人で全然変わってくるしで、少し会話しただけでは発達障害を持っている人かどうかなんて判りません。けれども、基本的な知識があれば「もしかして、この人の解りづらさは、障害や病気からきてるものかも。そうなら今の言動ってこういうことなのかな」と、あたりがつけられるようになります。臨床心理学ではこれを「見立てる」といいますが、あたりがつけられると、人間という生き物は、ちょっと安心できるんです。接客の場面で落ち着いた対応がとれるでしょう。

注意点としては、正しい知識を持つ事と、レッテル貼りにならない事です。あくまでも対人場面での人間理解の一助として、そういう可能性があるかもなという仮説として使っていただきたいのです。決めつけは偏見や差別につながる危険性があります。ここら辺の線引きに気をつけてほしいとお伝えしました。

ストレス・マネジメント

もうひとつはセルフケアです。対人職…に関わらずですが、仕事してるとプレッシャーというか、心身にストレスがかかりますよね。ストレスってのは色々なところに潜んでいますから、現代社会においてストレスフリーな生活は不可能だと考えた方がいいです。では、どうすればストレスとうまく付き合っていけるのか。今回はみんなで丹田呼吸法に取り組んでみました。呼吸法は副作用が少なくどんな場所でも行えるので、初手としておすすめです。

https://note.com/embed/notes/n255f6b511d77

ストレスへの対処法は大きく分けて、認知面、行動面、その他があります。認知面からのアプローチは、認知行動療法的な物事の捉え方や考え方、マインドフルネス、森田療法的思考などがあるでしょう。行動面では、上記の丹田呼吸法をはじめ、漸進的筋弛緩法や自律訓練法などが挙げられます。その他では、サードプレイスをつくって自分の時間を確保する、調子よくない状態が2週間続いたら病院やクリニックに相談する、などがあると思います。いくつか試して自分にしっくりくるものを生活の中に取り込んでみてほしいとお伝えしました。

自分自身の気づき

人前でのプレゼンは会社員時代に散々やってきましたが、心理士として臨床心理学の話をするのは今回が初めてでした。できるかな…大丈夫かな…という不安や緊張がありました。こうした気持ちを薄くしてくれたのは予行練習です。用意していたコンテンツを勤務先のクリニックの心理教育時間に披露して、反応が乏しかった部分の原因を考えたり、しゃべりにくかった箇所を修正したりしました。精一杯の準備ができていれば、当日は開き直れるものだと改めて実感しました。「やれることはやってきた、あとはやってきたことを自信持って披露するだけだ」この精神状態までもっていくことが大切なのですね。

聴講者の立場にどこまで寄れるか、言い換えれば現場感の大切さを改めて痛感しました。講演後の質疑応答で、現場感に基づいた質問に対するクリティカルな回答ができませんでした。臨床心理学一般の自分の土俵でしか回答できなかったのです。現場を知る努力と、自分の専門性を更に高める努力を、同時にやっていきたいなと感じました。

全体所感

アンケートを拝見して、聴講の皆さんが私の伝えたかったことを理解してくださっていたことが嬉しかったです。時間かけて準備した甲斐がありました。初めての試みで躊躇する気持ちがありましたが、飛び込んでよかったです。物事はやってみないとわからないですね。経験に勝る物なし。臨床心理学は実践の学問なので、正しい知識を豊かにしながら、一歩踏み出す行動力を意識していこうと思っています。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。