みなさん「アスペルガー症候群」をよく理解していないと思います。だから、「アスペっぽい」なんていう暴力的な言葉を使うんです。発達障害者支援法によると、日本における、アスペルガー症候群を含む発達障害を有する人の割合は人口に対して約8%程度とのこと。100人いれば8人。多様性社会、みんな違くてみんな良い社会をつくるなら、正しい知識を持ちたいですよね。

アスペルガー症候群をひと言でいうなら、知能発達の遅れのない(具体的にはIQ70以上の)自閉症スペクトラムと言えるでしょう。対人関係などの社会性の障害、興味や行動の常同性が特徴です。

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対人関係に困難を抱えている成人男性に、知能検査WAIS(ウェイス)を実施したことがあります。IQ130でした。これは全人口の上位2%の知能指数の持ち主しか入会が認められないMENSAに入れる水準です。ただ、全体的なIQは非常に高かったのですが、群指標間に大きな差(ディスクレパンシー)が認められました。対人関係の詳細やエピソードを聴かせていただくうちに、これがアスペルガー症候群なのかもな、という印象をもちました。

私が真似したくても真似できない凄い部分。それは特定の興味ある分野への深耕度や知識の豊富さでしょう。論理思考や計算力などでも舌を巻く水準の方々が沢山いて敬服してしまいます。

一方で、世間話などに悩まれたりします。エレベーターで同僚と出食わした際に、何て話しかけたらいいのかわからずフリーズするといいます。曖昧な状況や不確定な状態、空気を読むとか行間を推測するなどは苦手です。できないといってもいい。杓子定規な印象を受けます。顔の表情が硬かったり、動作のぎこちなさ、視線の強さなどの特徴がある方もいます。

付き合いが長くなり、信頼関係が出来上がってくると、そうした風変わりさは個性として捉えられるようになります。慣れてくるものです。初対面ではこちらも構えているので、尖った部分にフォーカスしてしまいがちです。

自分と比べて似ているか違っているか、常識的か非常識かで考えないことです。自分を物差しにするとロクなことがありません。自分の基準なんて怪しいものですよ。それが世間一般の基準と言えそうですか?比べて良し悪しで判断しないことが重要です。その人の目から見えている世界やその人の中の文化の在り方を、自分の価値基準を通さずに解ろうとする努力をしてみましょう。難しいことですが、その姿勢や気持ちは相手に伝わるものです。

こちらが挨拶しても返してくれない人。それは私が嫌われているからではなく、したくてもできない人…という可能性を持つことで、不必要な傷つきを防げるかもしれません。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。