好きな心理学用語のなかに、「レディネス」と「再近接領域」があります。どちらも発達心理学の用語です。

レディネスとは

レディネスとは、教育や学習が効果的に可能になるための発達的基礎のことです。日本語訳すると「学習準備性」となります。人が何かを学習しようとするとき、心身がある程度に発達した状態にないと上手く出来ないんだ、という理論です。

この理論に触れたとき、自分の過去経験の中から頭に浮かんできたのは、小2くらいの逆上がりの練習でした。学校の体育の授業で出来なくて、放課後に公園の鉄棒でたくさん練習しました。腕の筋肉も発達したのだと思います。失敗を繰り返してコツも掴んだのだと思います。レディネスが整って成功に到達したのですね。幼稚園や小1で成し遂げるとしたら、それ以上の努力を必要としたでしょう。

物事を成し遂げるには、適切なタイミングがあるという示唆です。「時は来た」とか「機が熟した」とかは、そういうことなのだと。

発達の再近接領域とは

発達の再近接領域とは、ロシアの心理学者ヴィゴツキーが唱えた理論で、子どもがある事柄を解決しようとする際に、自力では達成できないが、大人の援助や協力を得ることで達成可能な発達水準のことをいいます。

先の逆上がりの例で言うと、あとは腰の入れ方だけが課題という時に、大人がそっと腰に手を添えるとクルッと回れたりします。この時、”あとは腰の入れ方だけ”が現在達成している発達水準で、”大人がそっと腰に手を添えると回れる”が大人の援助によって達成可能な発達水準であり、この発達領域をヴィゴツキーは発達の最近接領域と呼んだのです。

子育てに活かす

レディネスも最近接領域も、子育てや子どもへ教育方針に参考になる考え方だなと、感銘を受けたんですよね。

物事にはタイミングや順序があるので、あれもこれも一足飛びに子どもに押し付けてはダメなのでしょう。準備は整っているだろうかと、レディネスを見極める。大人が手を出すのは、再近接領域に突入した時が最も効果的だということ。なんでもかんでも大人が積極的に介入するのではなく、子どもが持つ潜在的な学習や発達の可能性を信じ、大人との相互干渉を通じて広げていくことが大切なのです。

子育てに悩む親御さんは、発達心理学や児童心理学を読んでみてください。何かヒントがあると思います。私を含む多くの大人は、子どもの親ではあるけど教育のプロではありません。子どもの中で何が起きているのか、大概は自分自身の体験と照らし合わせて対峙するのですが、人間は誰一人として同じではないので、ズレや齟齬が必ず生じます。そんな時に理論としての心理学は、ひとつの道を示してくれるでしょう。

参考:河合塾KALS 大学院入試対策講座 心理学概論テキスト


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。