今冬は娘の大学受験だった。彼女の受験の仕方は格好良かった。大学のHPをみて所属する教授の実績や専攻を調べ、興味が湧いた学校のみを受験した。結果的に自分の実力以上の難関校となったが、最後まで信念をぶらさずにやり通した。自らの意思で目標を定め挑んでいくその姿に、我が娘ながら感銘を受けた。

「挑戦」という行為には、不安がつきまとう。達成見込みの高い課題に取り組むときには挑戦という言葉は使わない。出来るか出来ないか判らない課題に臨む行為を挑戦と言う。挑戦して失敗する可能性は決して低くない。失敗の不安があるなかで、それでも挑むためには、環境面では心理的安全性、本人面では自らの意思が重要となる。

心理的安全性

心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態をいう。提唱者である組織行動を専門とする心理学者エドモンドソンは「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義している。

心理的安全性が高い環境であれば、どのような質問や考えも受け止めてもらえると信じることができ、疑問や想いを率直に発言することができる。例えば、旧来の手法への提言や革新的なアイディアについて、オープンに話し合える雰囲気がある組織は心理的安全性が高いといえるだろう。Googleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表したことから注目されており、心理的安全性を高めることで個人や組織の効果的な学習や革新につながると期待されている。

娘の場合に還元すると、彼女の挑戦の基盤には家庭における心理的安全性があった、と考えていいだろうか。そうであれば、養育者として合格点の家庭内教育が提供できていると評価していいのだろう。子育てには正解がないので、こういう場面をひとつずつ取り上げて、自分たちで及第点をつけていけるといい。

意思の力

意思の力は何よりも強い。現在はASローマの監督であるモウリーニョの言葉は正しい。

電気より蒸気より原子力より強い動力がある。”意思”の力だ。(ジョゼ・モウリーニョ) 

私はサッカーを長いことやっているのだが、根性論を完全否定できないでいる。実力が均衡したシーソーゲームを制するのは「絶対に勝つ」という意思の強さだと思う。気持ちがひよるとプレーに出る。その影響がチーム全体に波及しパワーバランスが崩れるのだ。疲労困憊な状況で足があと一歩出るか出ないかは意思の力が大きい。そういう経験を沢山してきた。

意思があればやりきれる。働いていたリクルートという会社には、いいだしっぺがやる文化があった。「こういうのやれたらいいと思うんですよ」と上司に相談すると「いいね。じゃあやっていいよ」となることが多かった。意思の強いヤツが引っ張った方が物事はうまく推進されるのを沢山みてきた。逆にいうと、意思がなければ途中で折れやすい、ということだ。

「できるできない」ではなく「やろうとするかしないか」その意志が重要だ。(国見/長崎総高監督・小嶺忠敏)

挑戦とは小嶺監督の言う通りだと思う。失敗するかもしれない、しかし失敗してもいいという心理的安全性があれば挑めるだろう。挑戦した者だけが見れる世界がある。やりたいと想えばやればいい。挑戦は人生に広がりをもたらせてくれる。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。