耐性の窓とは、ストレス耐性の容量、つまりストレスを許容できる範囲を表した言葉である。愛着の型やトラウマ体験の文脈に用いられる概念だ。少し前に参加した勉強会で恥ずかしながら初めて知った理論で、こういう考え方もあるかと興味をそそられたので考察してみる。

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人はストレスを感じると、それに対処しようとする。刺激-反応の自然な営みだ。対処法としては「受け流す」「問題解決しようとする」「否認する」などいくつもあるが、そのうちの一つに「耐えようとする」ことがある。

耐えられる時と、耐えられない時がある。それはストレスの大きさの問題である時と、自分自身の「耐性の窓」が問題である時がある。

今日は耐性の窓で考えてみる。ストレスによって自律神経が乱れても、耐性の幅が広ければホメオスタシス(恒常性)が機能して、症状化はしない。上図でいうと、耐性の窓を突き抜けずに、耐性の幅の領域内で処理できるということだ。

狭ければ防衛反応、つまり過覚醒による交感神経優位な闘争逃走反応や、低覚醒による背側迷走神経複合体優位な凍りつき反応等が発動する。上図に従えば、上窓を突き抜けると「多動」「パニック」「激しい怒り」などの症状が発生し、下窓を突き抜けると「うつ」「分離」「正気のなさ」などの症状が発生する。

耐性の幅は狭いよりは広いほうがいい。しかし無限に広けりゃいいってものでもないだろう。広過ぎると受けている精神的なダメージが致命傷になるまで気付けなくなる。ダメージはこまめに癒すのが健康的だ。

適度な耐性の幅を持ちたい。適度は人によって個人差がある。自分の耐性の幅が人より広いのか狭いのか、それはわからない。比較のしようがないからだ。これを読んで、もし自分自身の耐性の窓に課題があると思ったのなら、心理カウンセリングを検討してもいいかもしれない。論理的にアプローチする認知再構成法や、身体からアプローチする行動療法など、耐性の窓に対するトレーニングや理論は沢山ある。専門家と共に取り組んでみるのも一手である。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。