発達障害をもった子どもの学校臨床でよく用いられる応用行動分析(以下ABA:Applied Behavior Analysis)を、認知症を患った高齢者臨床の場面でも取り入れよう、取り入れられますよ、という講演を拝聴した。ABAは発達障害児のものという自分自身の固定観念に気がついた。なるほど、考え及びもしなかったな。
ABAは、第三世代の行動療法といわれ、オペラント条件づけより発展した手法である。「ある行動」が生じる原因を、行動視点から実験的に明らかにしていく。行動は、[先行条件]→[行動]→[結果]の3つの関係で説明できる、という立場をとる。
例えば、デイサービスを利用される認知症を患った方が、周囲の関わりがなくなってひとりの時間が長くなると大声でスタッフを呼び、その声の大きさに他の参加者やスタッフがびっくりしてしまう、という問題行動があったとする。
この事象を本人の目線からABA分析すると、[先行条件]ひとりの時間が長くなる→[行動]大声を出す→[結果]スタッフが対応してくれてひとりではなくなり安心する、と解釈できる。
ABAでは「行動」に着目する。行動変容することで、結果を変えていく。この例で言うとたとえば、行動随伴性を変えるなら、ひとり時間を長くさせないような関与ができれば、大声を出さないという行動変容ができる。たとえば代替行動に変えるなら、大声ではなくチンベル(打楽器は強音なので音楽ベルのほうがベター)に変え、チンベルを鳴らすとスタッフが必ず褒めるようなシャイピングを施すことで新たな行動は強化され成立していく。結果、大声は出さなくなる。
行動変容を促す方法は、シェイピング、トークンエコノミー、タイムアウト、嫌悪療法、バイオフィードバックなどが開発されている。
小学校や中学校ではいち早くこの手法が取り入れられ定着している。講演を拝聴しながら私の中で「なぜ学校臨床では定着していて高齢者臨床では定着してないのだろうか」という疑問が湧き起こった。
スクールカウンセラー(以下、SC)のほとんどは臨床心理士や公認心理師の資格保有者で、大学院入試でも講義でもABAに触れる。一方で高齢者臨床の現場では、まず心理士の数が少なく、さらにABAを知ってるスタッフも少ないからかと質問してみた。回答は、それもあるし、学校の教師は大学の授業でABAを学んでおり、教師とSCの共通言語になりやすい環境があるから、とのことだった。
講演の最後におっしゃった「ABAは認知症を患った方の高齢者臨床に馴染みます」の言葉が印象的だった。その理由は、理論的に納得した部分と、妙な説得力だ。
認知症を患った方の認知機能は、個人差があるものの、基本的にはゆるやかに進行していく。まだら認知といって、明瞭にわかる部分と、ぼんやりする部分が共存したり入れ替わったりする特徴がある。ぼんやりする部分の印象が強いと「この人には何を言っても無駄だ。認識してくれない」というレッテルが生まれる。実際は決してそんなことはない。高齢者臨床に携わる全てのスタッフがABAを知り、協力し合いながら、問題行動に対して統一した対応を実践できれば結果が現れる。それを評価し次策を立案する。この積み重ねで、問題行動は変容させることができる。理論的にこれは高齢者臨床に持ち込めそうだと思えた。
説得力の正体は、現場で実際に自分でやってきたという言霊だろう。今回の講師の先生は、キャリアのスタートが医療・福祉の高齢者臨床で、そこから大学院の准教授になられた方である。私のゼミの恩師でもある。自身の経験に基づいた真っ直ぐな言葉というのは、語り口でわかった。
教科書の理論を教科書のまま発しても、耳には届くがこころまでは届かない。自らが現場に立ち、四苦八苦しながら試行錯誤の末に獲得した言葉は、同じ言葉でも響きが違う。人のこころは騙せない。人のこころは理論ではない正直さが備わっている。身の丈に合わない言葉はやめよう、等身大の自分でやるしかない。こんなことを感じた、学びの多い時間だった。現場に活かしていく。