スポットライト効果とは、自分が実際以上に他者から注目されていると錯覚してしまう認知の偏りである。この影響を受けると、まるで自分にだけスポットライトが当てられ、そこに居る全員が自分に注目していると考えてしまう。これ、側から見ればただの自意識過剰なのだが、当の本人は結構きつい状況である。

見られていると感じる部分は、自分自身の劣等感(気になる部位や嫌な癖など)なので、注目され他人から丸見えになっていると思うと苦しくなる。自分が気にしていることを他者も同じくらい気にしていると判断してしまう認知バイアスである。

20歳の私は、この認知バイアスに苦しめられた。大学に通う電車の中で、乗車客全員から見られている感覚を持っていた。私がこの現象に陥った理由は、アイデンティティ不確立の精神的な不安定さ、未熟さ、自信のなさであったように思う。

スポットライト効果が薄れたのは、大学2年の冬に、ひとりで手配して実行したオーストラリアへの1ヶ月の語学留学がきっかけであった。学校からの帰り道、日本人が私のみの電車を降り、夕空にきらり輝く南十字星を見上げながら家路を歩いている時に、自意識の呪縛がスッと解けた感覚があった。「ああ、誰も俺の事なんか見ていないし気にしていない。世界から見たら、自分はなんて小さい一点なんだろう。他人は他人、俺は俺として生きていくしかないんだな」スーッと涙が頬を伝ってきたのにはびっくりした。

スポットライト効果が持続したり強度が高まると、社交不安症などに繋がる可能性もあるので、注意が必要だ。対処法としては、自分で思ってるほど他者は自分を見ていないという認識を強めることである。そのためには、カウンセリングを活用し、カウンセラーとの対話を通じて自己受容、すなわち気にしてるのは他人ではなく自分であることを知ることが有効である。また、行動療法による効果も期待できる。社交不安症への心理療法として知られている行動実験ではあるが、頭に花をつけて街中を歩いたり、通行人に道を尋ねて反応を見たりして、自分が思うほど他人は自分に関心を持ってないことを実証していく。実験結果をカウンセラーと協議することで実感値が増すだろう。

すぐに一発の何かでスポットライト効果が雲散霧消することはないが、カウンセラーと共にPDCAすることで、思い込みのたがが緩んだり、一筋の光明が見え始めると思う。ひとりで抱えずに、ぜひ心理士を活用してもらいたい。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。