今年は意欲的に学会に参加して学ぶ機会を設けた年だった。ある事例検討会では、解離性同一性障害のテーマが提示された。
解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder, 以下DID)、聞き慣れないかもしれない。以前の呼称「多重人格障害」のほうが耳慣れしているだろうか。40〜50代の方はダニエル・キイス著『24人のビリー・ミリガン』だとか、私は1992年のフジテレビ月9ドラマ三上博主演『あなただけ見えない』の印象が深い。最近では坂元裕二脚本のTVドラマ『初恋の悪魔』で登場していた。
DIDは、個人のアイデンティティ(自己認識)が複数に分離し、それぞれが独立した人格や記憶、行動パターンを持つ。これにより発生する困りごとは、思考や行動がひとりの人間としてのまとまりを持たなくなるため、学校や仕事、家庭生活などに悪影響を及ぼすことにある。例えば、攻撃的な人格が暴言を吐いたり暴力を振るい、周囲とトラブルになるなど。同一性に混乱が生じることで、自分自身をコントロールできなくなる。
一方で、複数の人格を持つ最大のメリットは、耐えきれない苦痛を回避できることにある。自我を崩壊から守ってくれるのだ。こちらの動画で、人格が入れ替わる瞬間や空気感が一変する様子を刮目していただきたい。機微を捉えられる人であれば、演技でもふざけているわけでもないことがお分かりいただけるだろう。
主な特徴
- 複数の人格(交代人格)の存在
- 個人の中に、異なる名前、性格、年齢、性別、または嗜好を持つ人格が複数存在する。これらの人格が交代で表に現れることがある。
- 交代時には、現在の人格が何をしているか、他の人格が認識できない場合がある(記憶の空白)。
- 記憶の欠落
- 特定の人格が現れている間の出来事を、別の人格が覚えていない場合がある。
- この記憶の欠落は単なる忘れっぽさではなく、重要な情報や個人的な出来事に関するものが含まれる。
- 解離症状
- 解離とは、自分の思考、記憶、感覚、またはアイデンティティが切り離される感覚を指す。
- DIDの人は、現実感の喪失や自分が外部から観察されているような感覚(離人感)を感じることがある。
- トラウマとの関連性
- この障害は、幼少期に深刻なトラウマ(身体的・性的虐待、ネグレクトなど)を経験した人に多く見られる。これにより、こころがその状況から逃れるために人格を分けるという防衛反応が発生すると考えられている。
診断基準
DIDは、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル 第5版)やICD-11(国際疾病分類)に基づいて診断される。重要なポイントは以下の通りである。
- 二つ以上の明確に異なる人格状態の存在。
- これが日常生活において重大な支障を引き起こしていること。
- 他の精神疾患や物質の影響(薬物やアルコールなど)では説明できないこと。
治療方法
治療の主な目標は、分裂した人格を統合し、患者が安定した生活を送れるようにすることにある。一般的な治療法には以下が含まれる。
- 心理療法(トークセラピー)
- トラウマを扱うセラピー(例:トラウマ焦点化認知行動療法)。
- 安全な環境で過去の記憶や感情を処理する。
- 薬物療法
- DID自体を治療する薬はないが、併存するうつ病や不安障害の症状を緩和するために処方されることがある。
- 生活の安定化
- 安定した日常生活を送るためのスキルや支援が提供されることがある。
重要な注意点
- 解離性同一性障害は誤解されやすい障害であり、「作り話」や「演技」などと誤解されることがあるが、これは科学的に否定されている。
- この障害については多くの研究が進められているが、患者個人の特性に合わせたオーダーメイドな治療が必要なため、専門家との連携が不可欠である。
(後半部はChatGPTを参照)
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事例検討会では、参加した臨床心理士が、自らの立場を明示した上で、解釈や質問をぶつけ、見識を深めていった。私自身もこれを通じてDIDがより身近に感じられるようになった。粘り強くクライエントに寄り添い支援を続けた話題提供者に、感謝と尊敬の念を抱いた時間であった。