対人支援を行う時は、常に認知バイアスを意識しています。この認知バイアスは人間関係を構築する際にも役立つ理論だと思います。

認知バイアス」とは、認知(知覚・記憶・判断などの知的活動)における過度な偏り(経験などによる思い込みや先入観など)によって、事実を誤認し、その結果として適切な判断や思考ができなくなる心理現象です。元々は認知心理学における概念ですが、その後様々な分野で研究され、その適用範囲は医療やビジネスなど人間が関わるほとんどの分野で活用されています。

経験の過大評価

対人支援においては、認知バイアスの一種である「経験の過大評価」に注意する必要があります。

「経験」は私たちを助けてくれます。物事を効率よく問題解決に導くヒューリスティック思考は経験値がないとできません。(ヒューリスティックとアルゴリズムの解説はこちら

何かと便利で重要な経験ですが、落とし穴があります。それは、私たちは自分が見たもの・経験したこと・知っていることだけで、物事を判断しがちであり、見えないことや経験していないことにまで考えが及ばないという性質をもっていることです。そう、私たちは自分の経験を過大評価することが多い生き物なのです。

対人支援での一例を挙げると、過去に担当したAさんがこうだったから今回のBさんも同じようになるのではないか、とか、過去の複数人はみなさん大丈夫だったので今回のCさんも懸念点はあるけどスルーして大丈夫だろう、などがあります。書いていて、マジであるなと実感しております。

我々は人間なので、こうした認知バイアスが自動思考として頭にパッと浮かんでくるのは当然です。浮かんできていいんです、人間だもの。ただ、信じすぎないことです。ここが重要です。その後にバランス思考(認知バイアスがかった自動思考から一旦離れて違う角度から再認知する)を出せるかどうかが勝負の分かれ目です。理論や勘などが手助けしてくれるでしょう。

人間関係に活かす

対人支援に限らず、日常生活の中でも認知バイアスの知識は大いに活かせます。例えば人間関係の構築。はじめましての人に対し、私たちは無意識に瞬時にその人をアセスメントしています。容姿や表情、声などから性格を想像し、言動から思考性や知的水準などを推しはかろうとしています。なぜこんなことをするかというと、効率がいいからです。人は得体の知れないものに畏怖の念を抱きます。この人はこんな人、と早めに判断できた方が、自分自身が安心できるからです。なので、その人の個別性はおざなりにして、過去の人間関係から得た経験値を基準にカテゴライズします。

大事なのは、認知バイスがかかっていることを自覚することです。一旦貼ったラベリングを剥がして、もう一度純度高い目でその人を見ることです。

私たちは誰も「認知バイアス」から逃れることはできません。自覚すること。盲信しないこと。目の前の人を純粋性を持って見るめること。この意識があれば適切な支援のスタートが切れますし、人間関係も順調に築けていけると思っています。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。