臨床心理士資格の更新年であることも手伝って、ここ最近は例年に増して研修や学会への参加に積極的です。先日はスーパービジョン(以下、SV)に関するセミナーに参加してきました。

臨床心理のSVとは、カウンセラーや心理療法家が、更なる知識や技能を習得するために、上級者から助言や指導を受けることです。スーパーバイザー(指導する側)とスーパーバイジー(指導を受ける側)との間で行われます。

SVの進め方としては、以下のような形が多いでしょう。■バイジーが担当したケースについて、バイザーに報告する■バイザーから面接過程についての意見を受ける■バイザーの意見やアドバイスを受けて、自己のカウンセリングの問題点を振り返る■よりよいカウンセリングのあり方を習得する、などです。

SVは、心理支援を実践している専門家に、必須の訓練と言われています。

聴講中は、過去に受けてきたSVを思い返していました。初学の頃は不安に対して支持的で明確な指示を与えてもらったなとか、目的や枠組みが曖昧なSVはよくわからない60分になっていたなとか。SVの理論モデルや具体例、ロールプレイ映像などを使いながら多角的にSVについて深めることができました。

SVの効果は、時間の長さや回数に関連しない

アメリカのある調査では、SVの実施時間や回数と効果の関連性は認められない、との報告があるそうです。興味深い示唆ですね。闇雲にやればいい、というものではないのです。適切な時に、適切な関わりが効果、つまり成長を促すのです。ヴィゴツキーの最近接領域理論を思い出しました。

でも結果的には10回から20回くらいは継続してSVが行われるそうです。バイジーが担当するケースを題材に行う場合、ケースが安定してくるまでは頻度高く開催されることは容易に想像できます。

早急のフィードバックを控える

熟考までいかなくても、バイジーの言動の意味を吟味してからフィードバックしたい、という内容がありました。臨床場面では、セラピストが受けたインスピレーションみたいなものをクライエントに共有することがあります。臨床では横の関係で、より良き生に向かう自立性を育む目的、SVでは縦の関係で、臨床家としての職業的発達を目的とする違いがあるからでしょうか。

バイザーはひとりの臨床家を潰してしまうリスクがあることを肝に銘じておく必要があります。うん、責任感がパねえです。

スーパーバイザーになる

いつか私もバイザーになれますか。アメリカではセラピストの90%以上が実践を始めて15年以内に臨床スーパーバイザーになる、という調査結果があるそうです。セラピストは往々にしてバイザー役割のひとつである「評価」を苦手とする人が多いそうですが、私は17年間の会社員時代に経験済みですし「フィードバック」に関しても同様です。指向性もあるので、機が熟したら本格的に訓練を積み、バイザーとして後進や業界の役に立ちたいと、思いを新たにしました。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。