先日、スリープテック企業さんの勉強会にお招き頂きました。コンサルタントの皆さんの業務課題が「どうすれば行動改善してもらえるか」ということで、私が臨床で気をつけていることをお話しさせていただきました。
信頼関係ラポールを形成する
行動改善してもらおうと思ったら、こちらからの指摘や提案に聞く耳を持ってもらう必要があります。みなさんはどんな人の言葉なら聞けますか?私なら信頼できる人、もっと言えば真摯に誠実に向き合ってくれる人、と答えるかもしれません。
対人支援者が相談者さんとの間に信頼関係ラポールを形成しようとするとき、基本となる姿勢は傾聴でしょう。人の話を聴けない人に、人は話をしようとは思わないし、時間を共にしたいと思いません。
傾聴の技術に「オウム返し」があります。相手の言った言葉をトーンやピッチ含めそっくりそのまま反唱するのです。例えば「びっくりした」を「驚かれたのですね」と言い換えるとニュアンスがズレるリスクが発生します。「びっくりした」に対して「びっくりされたのですね」のほうが、わかってもらえているのかな、という気持ちが生まれやすい。私ははじめましてから15分くらいは特にこのコミュニケーションを意識しています。
相手の世界を理解しようとする姿勢も大事にしています。例えば、発達障害の特性を持っている方、統合失調症や認知症を患っている方などは、みえている世界がどこか違うのかもという前提に立って対峙しています。当然ながら、特性や病気の知識はアップデートし続けています。
本人の苦しみをフックにする
本人が困っていることにフォーカスして、改善提案をするようにしています。本人”が”です。例えば摂食障害(神経性やせ症)を患う方に「命の危険があるから食べましょう」と言っても、本人は「食べると自分にとってデメリットが生じるから嫌だ」と言われます。医療から見れば異常な状態ですが、本人からみれば適正や望ましい姿に映っているのです。
ただ、信頼関係の中で話を聴いていると困りごとはあるようです。座っていると尾てい骨が椅子に当たって痛むとか、体毛が濃くなってきたなど。それを解決するために少し食べましょうか?とすると、医療としての望ましい状態にも近づけることができるかもしれません。
真意をインサイトする
本人が望むことの真意はなにか、苦しみの核はなにか、そういった真相をインサイトする意識を持ちたいです。
「ホームセンターにドリルを買いに来る人は、ドリルが欲しいわけではなく、家の壁に穴を開けたいのです。表面的な言動に対応しているうちは二流で、その奥にある真意に意識を馳せられるのが一流です」
これは私が会社員の時にカリスマ編集長が披露してくれたクリエイティブとはなんぞやという文脈の話だったのですが、私はインサイトの重要性という観点で印象に残っています。
例えば不眠の改善を訴える人がいたとして、当然眠れるようになりたいのですが、もっというと不眠の原因を解決したいとも思っているはずです。まずは対処療法、落ち着いたら根本療法というふうに、核心にもアプローチして一緒に解決の糸口を見出せるプロセスをとりたいですね。
本人に宣言してもらう
行動変容を期待するときは、目標として決めた事項を、本人の口から宣言してもらうようにしています。
人には一貫性の原理、つまり、一度態度決定したことは最後まで一貫しようとする心理が備わっています。なぜなら、人は効率的に生きたい生物だからです。人は日に何万回も何らかの決断や判断を行っています。その度に新たに状況判断を行っていたのでは、非常に非効率で大きなエネルギーが必要です。そこで脳は、似たような状況に対して以前に行った判断や決断を模倣することで、効率的に対応しようとします。習慣的な行動がこれに該当し、手足の動きを意識しないで歩くことができるのはその代表例です。
口から発した言葉には霊力が宿ります。万物に神が宿る古代日本の考えは、非科学的だと一蹴すべきではありません。アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論では、自己決定の度合いが動機づけや成果に影響するとしており、言霊の存在を別角度からいい表しているとも考えられます。
自分の口から自分の言葉で宣言することで、自分の目標になります。私の臨床では、本人の意思の力を引き出すことで、行動変容を促しています。
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なんて、もっともらしいことをお話ししたのですが、失敗談もしゃべらせてもらいました。ラポール形成できなかったり、真の困りごとに気付けなかったりしてドロップした事例など、お役に立てなかった苦い経験がたくさんあります。私は、同じ轍を踏まないよう、多くの方の支援につながるよう、これからも誠意努力していきます。
