2月に産業組織支援のカウンセリングマインド、3月にリーガルマインド(法律の実際の適用に必要とされる柔軟で的確な判断)というテーマで、全2回の産業心理臨床セミナーを受講してきました。

学んだこと、気がついたこと、改めてそうだなと思ったことを手記しておこうと思います。

専門家風を切らない

医療・福祉・教育・司法と産業の一番の違いは、その現場にいる対人支援者の種類と数です。産業組織に所属する人は対人支援者に慣れていません。そんな中で、心理職が専門用語でバシバシ語り出したらどんな反応が起こるでしょう。想像するに容易いです。

初めから専門家風を切らないこと。専門人の観点と生活人の観点とをセパレートしたりミックスしたりしながら、お互いに理解できる言葉でコミュニケーションすることです。結果的に「やっぱり専門家だね」と評されるのが理想ですね。

組織人の観点が持てるか

産業の心理職は相談者が居る環境に、半分足を突っ込み、半分は外に出ている状態なのだと思います。仲間であり、部外者である。そうした不確実性や時に二律背反する立場を受容耐性できるか問われます。

私はこの観点では、自分自身が3社17年間の会社員経験があってよかったなと思っています。逆に言うとこれがなければ産業心理をしていなかったなとも。当然、私が経験した事と今目の前にいる相談者さんに起きている出来事は別物なのですが、それでも情景や想いを汲み取りやすいのだと思います。

安全な場所から正論かざしても誰にも響かないわけで、窮地に一緒に飛び込む意気込み、巻き込まれて共倒れない下半身の強さ、自分以外の支援者をバックアップしておく用意周到さ、立場を有効活用していくしたたかさを意識しておこうと胸に刻みました。

病理の知識

病理の知識、病院臨床での経験は必須でしょう。多くの会社には契約する産業医はいますが常駐していません。医師がいない場では、心理士は精神疾患の診断はできないものの、症状から見立て、適切な二次予防を施す動きが求められます。生物心理社会BPSモデルを駆使するために、生物の部分は座学知のみならず病院での臨床知も持つべきです。

法律の枠

実際の相談場面でありがちな訴え「37.2度の熱が出ても、事前申請でなければ会社が休ませてくれなくて困っています」にどう対応するかという問いがありました。

「熱が出てても会社が休ませてくれなくて困っていらっしゃるのですね」 「そのような職場でも頑張れるように一緒に考えていきましょう」は、カウンセリングマインドとしては正解です。ただし産業心理臨床では、ここで止まっては失格です。年次休暇を使わせてもらえないという観点では労働基準法違反ではないか、会社が安全配慮義務を守れていないという観点では労働契約法に抵触いないか、こうした頭を働かせなければなりません。

労働者を守る法律を知らないと⽀援ができないことを改めて考えさせられました。

自己保健義務とか抜けがち

労働契約における健康に関連する事項として、会社は労働者に対して安全配慮義務が発生し、労働者は労務提供における自己保健義務が発生します。自己保健義務とは、労働者が自身の健康管理に関して注意を払う義務です。噛み砕くと、日頃から健康に気を遣い業務に支障を来さないよう健康管理すること、所定労働時間働ける状態にしておくこと、です。この労働者側に課せられている義務は抜けがちです。

抜けがちでいうと、休職から復職する判断基準についてもそうで、従前の業務に就くことができる状態にあることが基本です。時短や業務内容の配慮はあくまでも配慮であることを忘れてはいけません。やれることはやってもらい努力してもらう、その上いでやれないことを配慮するという双方の歩み寄りが大切です。

法律の知識はもちろんですが、まずは就業規則を読むところから。自分が会社員として働いている時は読んでいたんだけどな…。正直、心理支援業務で契約している会社さんの就業規則を通読していなかったです。何かあったときは、その都度、人事部のみなさんにお聞きしていました。恥ずべき行為です。セミナー後、早速目を通しました。

求められる産業臨床家

「企業が産業心理職に求めるコンピテンシー調査」小林ほか(2021)では、●秘密保持ができること●中立的な立場を保持することができること●組織にあわせた施策の企画立案、提案、実行ができること●組織への対応のために関係部署と連携できること、という結果が示唆されました。

企業からの信頼を得るためには会社員のような仕事ができたほうがいし、相談者からの信頼を得るには心理カウンセラーとしての力量を上げなきゃいけない。私が目指す姿の解像度が高まったセミナーでした。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。