20年前の本なのだが、気づきが多かった。当時と今では環境もテクノロジーも大きく変わっているのに、人間の心はほぼ変わらないのだと痛感する。私たちは「大丈夫だろう」「今回はきっと平気」という希望的観測に、気づかぬうちに身を委ねてしまう。状況を直視しない癖、都合の悪い未来を棚上げする癖は、ヒトに備わる弱さなのだ。

ご多分に漏れず私もそうで、仕事の状況、キャリアの選択、日常の小さな判断など、どれも”本当は感じている違和感”を見ないふりすれば楽にはなる。でも、その楽さは麻酔のようなもので、そのうち確実にツケが回ってくる。

著者が語るのは、危機管理の技術さることながら「人は油断する生き物だ」という前提だ。だからこそ、未来を直視し、違和感を言葉にし、異変を共有することが大事になる。生きるということは、常に小さな備えを積み重ねることなのだと改めて思った。

読み終えた後、少しだけ背筋が伸びた。自分の安全や人生を他人に委ねず、自分で自分の舵をとる。そんな改めての決意が、じんわりと胸に残った。

人間は、希望や願望によって、不安な現実、ましてや将来のことなど直視しなくなる。

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦著

経営者に求められる唯一の資質は、未来の座標軸に自社のあるべき点が打てることと、そこからものが考えられること。

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦著

楽園に住む生物はいつでも食料が豊富にあるので、本能的な闘争心や危機予知能力が衰える。すると、時折襲ってくる外敵の前に、抵抗らしい抵抗もせず全滅してしまう。

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦著

平和と自由は勝ち取るもの。

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦著

何かトラブルが発生したら「知らせる」から始めてほしい。これが防災、危機管理の共通する優先順位である。

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦著

災害時に怖いのは、視界を遮る煙と闇や、燃え盛る炎だけではない。アクション・スリップが引き起こす心の動揺と変化である。

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦著


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。