転職市場の動向をみると、企業の求人は引き続き活況で、その数はコロナ禍前の約2倍の水準に達しているようです。

みなさんの職場にも、中途入社の社員が増えてきているのではないでしょうか。経験豊富な人、少し年上の人、全く違う業界から転職してきた人。そんな「異分子※」が加わると、職場の空気が少し変わることがあります。

※中途社員さんを異分子と書いてすみません。私自身が会社員時代に2度の転職を経験し、その時に異分子感を抱いていたので、そのように表現させていただきました。もちろん悪意はないです。あしからず。

「あの人、ちょっと雰囲気が違うな」「なんか自分たちのペースを乱されそう」そう感じることは、決して悪いことではありません。むしろ自然な反応です。

ヒトは「自分と似た人」を好み、「違う人」に警戒する傾向があります。これは生物としての本能であり、危険から身を守るための自然なシステムなのです。つまり、「違いをやっかいに感じる」のは、あなたの性格が悪いからではなく、人間であるがゆえの当然の反応なのです。

ただ、その反応に従いすぎてしまうと、せっかくのチャンスを逃してしまうことがあります。

実は「異分子」と思える相手も、同じように緊張していることが多いのです。「どうやって馴染めばいいだろう」「若い人たちに受け入れてもらえるかな」そんな不安を胸に、勇気を出して新しい環境に飛び込んできています。

だからこそ、もしあなたのほうから一言でも声をかけてみたら、相手はホッとするかもしれません。「この人、話しかけてくれるんだ。嬉しい!」と感じた瞬間、距離はぐっと縮まります。そして話してみると、思いがけず気が合うことも少なくありません。自分とは違う価値観に触れることで、逆に自分の考えが整理されることもあります。

職場のチームというのは、同質性が高いと居心地はいいものの、非連続な変化や成長は生まれにくいものです。異なる視点や経験を持つ人が入ってくることで、今まで見えなかった課題に気づいたり、新しいやり方を試す機会が増えたりします。つまり、「違い」は摩擦を生むこともありますが、その摩擦こそがチーム力を引き上げる原動力になるのです。

排他的になるのではなく、相手の良いところを見つけて、自分たちの中に取り入れていく。そうすれば、これまで積み上げてきた成長よりも、はるかに速いスピードで組織は進化します。心理学ではこれを「相互作用による成長」と呼ぶことがあります。互いに影響を与えあい、学びあう関係性が築かれたとき、チームはより柔軟で創造的になります。

もちろん、最初からうまくいくとは限りません。相手に歩み寄ることには、少し勇気が要ります。でも、その一歩を踏み出す人がいるかどうかで、チームの雰囲気は大きく変わります。もしあなたがその一人になれたなら、職場の空気は確実にやわらかくなるはずです。

新しい仲間を受け入れることは、自分の枠を広げることでもあります。自分とは違う価値観を理解しようとするプロセスは、結局、自分自身を深く知ることにもつながります。どうか、違いを恐れず、違いを味方に。相互理解しながら成長していけるチームを、皆で一緒につくっていきましょう。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。