医師はメスと薬で治療し、心理士は言葉で支援する。心理カウンセラーの武器は言葉である。言葉の感度が低いカウンセラーは失格だ。ここまで断言してしまうと自分の首を絞めることになるので苦しいのだが、やはりダメなものはダメなのである。

カウンセラーはクライエントの思考や感情に深く影響を与える役割を担うため、以下の理由から言葉の選び方や使い方に敏感である必要がある。

微細なこころの変化を感じ取るため

クライエントが発する言葉には、感情や無意識のサインが含まれていることが多くある。例えば「まあまあです」という一言の裏には、怒りや不安、諦めなど、人それぞれ、状況によって実に様々な感情が含まれている。カウンセラーはクライエントの言葉の選び方、トーン、言い淀みなどから心の動きを読み取り、適切な言葉かけでこころのケアに繋げていく。

適切な言葉が信頼関係を築くため

言葉の使い方ひとつで、クライエントが「この人は自分を理解してくれる」と感じるか、「わかってもらえていない」と感じるかが大きく分かれる。共感的で繊細な言葉づかいは、ラポール(信頼関係)を築くために必要不可欠である。

傷つけず支える言葉を選ぶため

無自覚に発した言葉がクライエントを傷つけてしまう可能性がある。特にこころが敏感になっている人に対しては、言葉の重みが何倍にもなる。言葉は時に毒になることを常に自覚しておかなければならない。細心の注意を払い、支える言葉、寄り添う言葉を選ぶ必要がある。

非言語的な意味も読み取る

言葉そのものだけでなく、その背後にあるノンバーバルな想いや感情を感じ取ることも重要だ。言葉の感度を高めることは、クライエントの真意を理解し、より深い対話を可能にする。

まとめ

心理カウンセラーにとって言葉は「道具」であると同時に「架け橋」でもある。言葉に対する感度が高ければ高いほど、クライエントの困難や希望に深く寄り添うことができ、より効果的な支援が可能になる。

大学院時代に教授から授業中に「臨床心理士になるのであれば、日々の生活での会話・言葉使いからアンテナを張りなさい。日常でできない人が、臨床で出来るわけがないので」と言われたことを思い出した。先生の言っていることは正しい。言葉の感度を高めよう。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。