確固たる信頼を得るには長い時間が必要です。信頼感は、言行一致、約束を守る、誠実である、人の話を聞く、一貫性のある態度、秘密を守る、利他的な行動、適度な自己開示、などの要素から徐々につくられていきます。

とはいえ、対人支援やセールスの場面では、はじめましてからの数分で、ある程度の信頼関係(ラポール)を築かないと、次のステージに進むことができなくなります。

そこで活用したいのがミラーリング(Mirroring)技法です。相手の言動や態度をさりげなく真似ることで、無意識に短時間でラポール形成することが可能です。

人は基本的に自分に似た人を好む傾向があります。

なぜなら、自分と似た人は、自分の信念や価値観を肯定してくれる存在になるため「自分は悪くない」「この考え方でいいんだ」と自己肯定しやすくなるからです。また、自分と似た人の行動は大体予測できると感じやすいため、相手を理解するためのエネルギーや注意が少なくて済むのもポイントです。つまり、心理的安全性・自己肯定感・予測可能性の強化という心理的報酬が得られるため、人は自分に似た人を好むのです。(長く付き合っていくと同類嫌悪、可愛さ余って憎さ百倍という現象に発展したりもしますが)

では、営業場面でよく使われる具体的なミラーリングを紹介します。

1. 姿勢・動作のミラーリング

相手の姿勢や動作をみて、同調させていきましょう。相手が極度に緊張している時は、まずはこちらが緩め、相手も緩んだら、ミラーリングを開始します。ポイントは、相手を完全にコピーするのではなく、2~3秒遅らせてから自然に追随することです。違和感を抱かせないのがコツです。(言うのは簡単ですが、やると結構難しいです)

2. 話し方やペースを合わせる

声のトーン、スピード、ボリュームなどを相手に合わせると「話しやすい人だな」と感じてもらえます。クロージングの際は、相手が前向きなら、こちらもテンポを上げて熱量を合わせていきます。逆に迷っているなら、こちらもトーンを落として丁寧に情報提供をします。相手の温度感に合わせて自分のテンポを調整することが、最後のひと押しに繋がります。

3. 同じ言葉をそのまま使う

相手:「何を基準に判断したらいいか、分からなくて…」
自分:「“何を基準に判断したらいいか分からない”という状態なんですね。そういう時って一人では整理しにくいですよね」

繰り返すだけでも、「ちゃんと聞いてくれている」と思わせる効果があります。むしろ同じ言葉を使ったほうがいいです。言い換えるとニュアンスがズレるリスクが生じます。会話の導入期であれば「モヤモヤ」「分からない」など抽象度の高い言葉はなおさら、相手の言葉をそのまま使って返すことをお勧めします。

4. 相手の使う言葉を取り入れる

相手が使う専門用語や表現をミラーリングすると、2人の間で同じ価値観を共有している印象を与えます。意味がわからない専門用語は、最初の方で聞いておきましょう。「コイツわからないまま使ってるな」と思われてしまうと、軽薄な印象を抱かせ、マイナス効果になることがあります。

5. 感情のミラーリング

感情に共鳴する姿勢を取ると、心理的な距離が一気に縮まります。心理士になる訓練をしていた時、先生から「傾聴では、事柄の確認も大切だけど、その人の感情に着目した応答ができると、ラポールがつくられやすい」とアドバイスされました。基本形が出来上がったら、一歩踏み込んで、感情のミラーリングにも挑戦してみてください。

NGなミラーリング

相手の動きを即座にコピーすると不自然に映ります。わざとらしい表情や言葉は不信感につながります。「オウム返し」が多すぎると会話が進まず泥沼化します。相手が無意識でやっている不快な癖(貧乏ゆすりや舌打ちなど)まで真似すると、相手の気持ちが不愉快になってきます。

まとめ

相手:「最近、業務量過多で、本当に深刻なんです」
あなた:「業務量過多…本当に深刻なんですね…。ちなみに、どういったところに影響が出ていますか?」

このように、「相手の言葉を拾いながら+共感+質問」を組み合わせることで、スムーズな会話とラポール形成ができます。

営業の場面であれば、まずは自社商品の魅力を自分の腹に落とすこと。自分が本心から「いい」と思っていないと、自信をもって相手に勧められないですから。次に相手のニーズや状況を把握すること。そこに合わせて適切な提案をしていきます。その際にミラーリングが効いてきます。本質を飛ばしてミラーリングしても策士策に溺れるだけなので、アドオン、プラスアルファくらいの気持ちで取り入れられるといいでしょう。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。