ご質問をいただきました。ありがとうございます。

マネジャー職をしています。チームメンバーのひとりが、医療機関で認知行動療法(以下、CBT)の支援を受けています。CBTに対し「でも、考え方はなかなか変わらないので、無理なんですよねー」と1on1の場で発言していました。私もCBTやれるので、追随してフォローしてあげたいとも思うのですが、どうなのかなと。本人の困り度や本気度に依りますか?

鋭い洞察です。まさにおっしゃる通りで、このような場合は、本人がどれだけ困っているか、そして認知変容や行動変容の意志がどの程度あるか、に依ると思います。これはCBTに限らず、心理的変化全般の大原則といえます。

さて、ご本人の発言には、以下のような背景が考察できます。

  • 変わりたいけど変わらない葛藤
  • 変われない自分への諦めや無力感
  • CBTが自分には効かないという疑念
  • 変わるほど困っていないという認識

この方の今の状態や認知の偏りの大きさによっては、外からの安易な助言やアプローチが逆効果になることもあるため、関わり方やタイミングに気をつけたいところです。

こちらから関わる際のポイント

「助けよう」としすぎない

支援側が「どうにか力になりたい」と思うのは自然で良きなのですが、本人の準備が整っていない段階で働きかけると、わかってくれないという反発や防衛につながる可能性があります。例えば以下のような正論発言は避けたいところです。

✕ 「でも、考え方って少しずつ変わるもんですよ」
✕ 「自分の考えを変えよう!っていう意識をもっと持ったら?」

本人の「困り度」と「希望度」を見立てる

変化を支援するには、以下の2つのエネルギーが必要です。

  • 「困っているか」(現状に不満・痛みがある)
  • 「変わりたいか」(理想像がある・何かしら望んでいる)

この2つのどちらか、あるいは両方が本人の中で高まっていなければ、アプローチしても空回りしやすいです。

もし声をかけるとすれば…

もし近いうちに1on1の中でCBTの話が出たときは、以下のような「共感+自己決定を尊重する姿勢」が望ましいです。

 ◎「そうなんだ、取り組んではいるけど変えるはやっぱり大変なんだね」
 ◎「続ける中で、ちょっとでもラクになっていくといいね。応援してるよ」

これくらいの「そっと寄り添う距離感」が、安心感や信頼の土台になり、本人が必要なときに助けを求めやすくなります。

行動変容ステージモデル

関わるタイミングは、「行動変容ステージモデル」が参考になるでしょう。これは人が行動を変えるまでの心理的な準備段階を理論化したモデルで、禁煙やダイエットなどの健康行動の変容支援に多く使われてきましたが、コーチングやカウンセリング、心理療法でもその有用性が認められています。

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「CBTやってるけど、変わらないんですよねー」の発言から察するに、実行はしているものの、マインドステージとしては関心期~準備期の中間あたりに居るのかもしれません。であれば声がけ内容は、CBTの具体的なHOWではなく、エンパワメント系のチアアップが適切なのでしょう。




cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。