感情労働とは、感情を商品として提供する労働形態のことです。体力を使う肉体労働、知力を使う頭脳労働に対する言葉として使われます。提唱者であるアメリカの社会学者A.R.ホックシールドは、「相手に感謝や安心の気持ちを喚起させるような、公的に観察可能な表情や身体的表現をつくるために行う感情の管理が必要な労働」と定義しました。
代表的な感情労働の職業は、看護師、カスタマーセンター、クレーム対応部署、航空会社の客室乗務員、飲食店や小売店、各種接客業などが挙げられ、最近ではモンスターペアレントに対応しなければならない教師も感情労働化しているといわれます。
私も感情労働者です。一般企業でのToB営業職経験があるので、この仕事の精神面の重労働さがわかります。どんな点が大変なのでしょう。
1. 感情の「演技」が求められる
たとえば、こころの中ではイライラしていたり落ち込んでいても、笑顔での接遇や、丁寧な対応を求められます。これは「表層演技(surface acting)」と呼ばれ、自分の本当の感情と外に出す感情がズレている状態。この感情ギャップが、こころのエネルギーをすり減らします。
2. 自己抑制の連続
感情労働では、「怒ってはいけない」「泣いてはいけない」「喜び過ぎてもいけない」といった自己コントロールが必要です。これは脳の前頭前野をフル稼働させる作業で、疲労につながります。
3. 報われにくい努力
感情を押し殺して対応しても、相手が不満をぶつけてきたり、クレームになったりすると、「頑張っても無駄だった」「わかってもらえない」などと感じてしまい、無力感や虚無感が生まれます。
4. 境界線があいまいになる
特にケア職や接客業では、「自分の感情」と「他人の感情」が混ざりやすくなることが多いでしょう。相手に共感しすぎて、自分の感情を見失い、巻き込まれる形で疲弊してしまうことがあります。
5. 社会的評価への不安
「いい人でいなきゃ」「嫌われたくない」といった対人不安や過剰な期待へのプレッシャーも、感情労働の中では無視できません。承認欲求が満たされないまま働き続けると、消耗しやすくなります。
感情労働の問題点とされているのは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、疲労(主に精神疲労)が溜まっても休めば比較的簡単にリフレッシュできるわけではないという部分です。感情労働の従事者が、休日を過ごしてもダメージを回復できぬまま出社し、ストレスでメンタルヘルス不調に陥ってしまうケースは少なくないといわれます。
日々のこまめなメンテナンスが大事になります。企業や組織の人事部門は、感情労働の特殊性を理解し、従事する人に感情コントロールのトレーニングを実施したり、メンタルヘルス不調を未然に防ぐケアやサポートを行ったりすることが必要になってきます。心理カウンセリングの活用も有効です。