突然の環境変化にどう挑むか。前回は30代に向けて、今回は50代(48歳の私はこちら世代)のみなさんに向けて書いてみました。ここから私たちができることが、沢山あります。
長年勤めてきた会社の株主が変わり、新しい社長が就任することになった。「いやまさか、こんなことが起こるなんてな…」築かれてきた組織の文化や価値観が、ガラリと変わるかもしれない。いや、変わるのだろう。
25年という年月を共にしてきた会社に起こる大きなうねり。。。あなたの胸の内では、不安と戸惑い、あるいは一抹の期待が複雑に交錯しているのではないでしょうか。でも、その揺れはとても自然なことです。心理学的に見ても変化に直面したとき、人は必ずと言っていいほどこころを揺らします。あなたが自分の役割やこれまでの歩みに真剣に向き合っているからです。
「これまで」と「これから」のあいだで
心理学者エリクソンは、人生を8つの発達段階に分けました。50代は「世代性 vs 停滞」というテーマを生きる時期。つまり、自分の経験や知恵を次世代にどう伝えていくかを模索する時期なのです。今回の環境変化はきっと「この会社でこれからどう生きるのか」「何を残せるのか」という問いを、あなたに向けて発信しているのでしょう。
新たな体制に馴染めるか、役割はどう変わるのか。これまでのやり方や信念が通用しなくなるかもしれない。そんな不安があって当然です。一方で、新しい価値観が生まれる可能性もある。このように、「これまで」と「これから」のはざまで自分の立ち位置を探す過程は、生き方を再構成するチャンスでもあるのです。
「役割ロス」に気づくこと
長くひとつの会社に勤めていると、職場での自分の「役割」は単なる仕事以上の意味を持ちます。頼られる存在であり、後進の育成にも関わり、社内での居場所が確立されている。そうした役割が、体制の変更とともに見直されるとき、知らず知らずのうちに“役割ロス”を感じてしまうことがあります。
家庭内でも似たようなことが起こる。お子さんがいらっしゃる方は、子どもが成人して家から巣立ち、子育てがなくなりこころにぽっかりと穴が空いた気分になる「空の巣症候群」に気をつける時期でもあります。
そう、50代は職場でも家庭でも、役割や立場が如実に変わる時期なのです。
このような時に大切なのは、自分の価値を肩書きではなく、経験や信頼の中に見出す視点です。これまでの歩みの中であなたが積み上げてきた時間、実績、人とのつながりなど、それらは組織(仕事も家庭も)がどう変わろうとも、簡単に失われるものではないことを胸に留めておいてください。
「トランジション」を受け止める力
組織の変化に際して、人が感じる心理的なプロセスは、ウィリアム・ブリッジズの「トランジション理論」で説明されます。この理論では、変化の適応には以下の3つのステップがあると示唆しています。
- 終わり(Ending):古いやり方や価値観を手放す
- ニュートラルゾーン(Neutral Zone):不確実な中で模索する期間
- 新たな始まり(New Beginning):新しい方向に向かって進む
今あなたは、ニュートラルゾーンにいます。答えが見えにくく、不安や停滞を感じやすい時期です。ここで重要なのは、「焦らない」ことと「一人で抱え込まない」こと。同世代の仲間や後輩とざっくばらんに話してみるのもいいでしょう。変化をきっかけに、価値観を交換し、互いに学び合える関係性が生まれるかもしれません。
最後に、あなたの「知恵」は風の中で光る
これから会社は確実に変わるでしょう。でも、その中にあって変わらないものもあります。
例えば、後進や若手があなたに向けるまなざし、判断ににじむ経験の重み、仕事の中で育んできた人間力などは、組織がどう変わろうとも、風の中で光り続ける「あなたらしさ」そのものです。
この先も、自分自身の軸を見失わずに歩いていくためには、自分の感情に誠実でいることがひとつの鍵です。そして、自分の強みや誇りを、言葉にしてみること。若手時代には持てなかった武器が備わっている自分に改めて気がつくはずです。
「会社が変わる」という出来事は、単なる環境の変化ではなく、「自分がどう生きていくか」を改めて問い直す機会でもあります。どうか、あなたがこれまで積み上げてきたものに、胸を張ってください。そして、この先の道を自分らしく、皆と共に歩んでいきましょう。