1985年東京8月の平均気温27.9度、最高気温31.6度(気象庁)ですって。

近年の夏は、働く人々にとってある種の“戦い”です。連日の気温は30度を超え、エアコンと屋外の温度差に体がついていかず、夜の眠りが浅くなる。通勤だけで体力は消耗され、現場では汗が止まらない。そして、なぜかイライラする、集中できない、言葉がきつくなる。

実は夏こそ、日々のこころのメンテナンスが必要な季節なのです。

臨床心理士として、年間を通してメンタルやコンディション不調の相談を受けていますが、夏場は「疲れが抜けない」「やる気が出ない」「人と関わるのがしんどい」というお声が増えます。これは、暑さによって自律神経が乱れやすくなること、睡眠や食事のリズムが崩れやすいこと、さらには周囲の人も余裕がなくなって職場の空気がピリつく、といった社会的要因も影響しています。

では、どうすればこの「夏のメンタル負債」を最小限に抑えて、健やかに働けるのでしょうか。ポイントは大きく3つです。

「休む」ことを前提に予定を組む

私たちは仕事の予定を立てるとき、「何をするか」には意識を向けますが、「どう回復するか」は後回しにしがちです。夏場は暑さと疲労で回復速度が落ちるため、普段以上に休息の確保が大切になります。例えば「午前中に集中作業を入れるなら、午後は負荷の軽い業務を組む」「1時間作業したら5分クールダウンする時間を取る」など、小さな休憩を意図的に組み込むことが重要です。働き詰めではどんなにタフな人でもオーバーヒートします。

「自分のコンディションメーター」を持つ

こころの不調は、急にドカンと来るわけではなく、ジワジワと忍び寄ります。その前兆に気づける人は、自分を守る力が高いと言えます。おすすめは、毎日「5段階で今の自分を評価する」習慣です。たとえば、「疲労感」「睡眠の質」「やる気」「イライラ度」「人との関わりやすさ」などを1〜5でざっくりチェック。数字がいつもより下がってきたら、ケアのサインと捉えましょう。体温や血圧と同じように、コンディションのバイタルサインを日々点検する意識が、夏場は特に役立ちます。

アサーションで「発言」に気をつける

暑さでこころも荒れやすいとき、人間関係がギクシャクしやすくなります。そんなときに効くのがアサーションによる「言葉の温度調整」です。同じことを伝えるにも、「何でそんなことしたの?」ではなく「何か困ってた?」と声をかけるだけで、印象も受け止め方もまるで違います。I’m OK , You ‘re OKなコミュニケーションを意識します。暑い時期こそ、ひんやりと心地よい相手を傷つけない言葉を使いましょう。


「がんばる」ことも大切ですが、「自分をいたわる」ことも同じくらい大切です。夏の暑さは、知らず知らずのうちに私たちの心身を削ってきます。戦略的にこころと身体を守る働き方を取り入れ、今年の夏は軽やかに健やかに乗り越えていきましょう。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。