営業成績が伸びなかったとき、担当していたプロジェクトが頓挫したとき、ミスが続いたとき。。。そんな時にあなたは原因をどこに置きがちでしょうか。ワイナーが唱えた「原因帰属」理論に沿って整理すると、真因に近づくことができます。

若い頃の私は「自分の能力や技術が足りなかったから、相手を満足させられなかった」と考えることが多かったです。しかし今では、そう単純には捉えなくなりました。もちろん能力要因もあるでしょうが、それが100%ではないと気がついたのです。

転機は29歳。会社の先輩にかけられた一言が、私の思考を変えました。

「全部を自分のせいにするのは、ある意味で“逃げ”だよ。きちんと分析しないと、根本からの解決策は立てられない。同じ轍を踏むことに繋がるよ」

逃げ?…いや、そうかも。私は「他人や環境のせいにするのは格好悪い」と思い込み、ストイックに“自責”へ寄せすぎていました。ある意味では自責にしておいたほうが楽ですし。

原因帰属理論を知った今では、よりバランスを取って考えられるようになっています。「私だからこうなったのか?」「誰がやっても同じ結果だったのか?」「似た状況で成功した事例はなかったか?」「相手・仲間・課題の内容はどうだったか?」こんな感じで、多角的に問い直す癖がつきました。

原因帰属理論では、原因を4つの観点から整理します。

① 能力(生まれ持った力)
② 努力(取り組みの量・質)
③ 課題の難易度
④ (偶然的な要因)

このうち、「能力」や「課題の難易度」は自分の力では変えられません。ここに重きを置きすぎると、動けなくなってしまいます。

一方で「運」は可変的です。今回はたまたまうまくいかなかっただけかもしれません。次に同じことをして成功すれば、それは「運」だったということです。10回やって10回とも結果が悪いなら別の要因を探る必要がありますが、1回の失敗で自信を失うのはもったいないですよね。

そして「努力」しているのに成果が出ないときは、努力の“量”ではなく、“方向”がズレていないかを見直しましょう。努力そのものを否定するのではなく、調整の観点から考察することも必要です。

結果を振り返るときは、原因帰属の4項目を意識してみてください。それが“メタ認知力”を高め、再発防止や改善策をより本質的なものにしてくれます。真の原因をつかむことが、次の一手をよりクリティカルにする鍵です。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。