忙しい仕事の合間に、気づけば呼吸が浅くなっていることはありませんか。チャット対応やミーティング、締め切りなどに追われていると、無意識に胸だけで呼吸をしてしまい、心身に余計な緊張がたまります。そんな時に役立つのが「丹田呼吸法」です。

東洋の知恵として伝えられてきましたが、近年の研究によって科学的な裏づけも少しずつ明らかになっています。

まず、腹式呼吸そのものには自律神経を整える効果があります。深くゆっくりと息を吐くことで、副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が下がることが確認されています。つまり、意識的に呼吸を整えることで、体を「休息と回復モード」に切り替えることができるのです。

さらに、日本の研究では、丹田を意識した呼吸法を実施すると脳波にα波が増加し、リラックス状態が高まることが報告されています。また、2017年の生理心理学の研究では、腹式呼吸を習慣化した参加者はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減少し、心理的ストレス耐性も向上したと報告されています。

実践方法はシンプルです。椅子に腰かけ、背筋を軽く伸ばし、両足を床につけます。へそから指3本下にある「丹田」に意識を向け、鼻から3秒息を吸ってお腹をふくらませ、1秒止めてから、口から6秒かけて細く長く吐き出します。吸うよりも吐くを長くすることがポイントです。添付資料もご参照ください。

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呼吸法は仕事のパフォーマンスにも良い影響を与えます。米国の心理学研究では、腹式呼吸を取り入れたグループは注意力や意思決定の精度が高まり、プレッシャー下でも冷静さを保ちやすいことが示されています。

つまり、丹田呼吸法は「疲れを癒す」だけでなく、「集中力を高める」実践的な技術でもあります。仕事をしていればストレスを感じる場面がつきものですが、こうした科学的に裏づけられた呼吸法を生活リズムに取り入れて、セルフコーピングしていきましょう。

1日数分の呼吸が、仕事の質と心身の健康を支える。そんな習慣を、今日から始めてみませんか。




cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。