カウンセリングでは、クライエント(以下、CL)の話に耳を傾けながら、その人の感情を丁寧に辿っていくことが求められます。傾聴技法のひとつに「感情の明確化」があります。これは、カウンセラーがCLの語りの中にある感情に焦点を当て、それを代弁したり、言い換えて伝え返す技法です。
例えば、CLが「最近、職場で話しかけてもらえなくて」と語ったとき、カウンセラーが「それは孤独を感じますね」と返すような場面です。ポイントは、カウンセラー自身の感じ方を押し付けるのではなく、「もし自分がその立場なら、どんな感情が湧くだろう」と想像しながら、CLの感情世界に寄り添うことです。
感情の明確化には、カウンセラーの理解とCLの内面とをすり合わせる働きがあります。
もしCLが「そうなんです」と応じるなら、カウンセラーの理解がCLの感情と一致していることが確認できます。一方で、「いえ、孤独というより、腹立たしいんです」と返ってくるなら、それは新たな理解への貴重な手がかりになります。どちらにしても、CLの感情を言語化する支援が進むという意味で、感情の明確化はとても有効です。
この技法を考える上で印象的なのは、日常的によくある「自動的な反応」の危うさです。
例えば、CLが「先日、誕生日だったんですけど」と話したとき、多くの人は反射的に「おめでとうございます」と返すと思います。しかし、その誕生日が「気まずい」「さみしい」ものであった可能性はどうでしょう。同様に、「半年前に親が亡くなったんです」と言われたとき、「それはつらかったですね」と即座に返すことも慎重でありたい。一般的には悲しみを想定しますが、家族関係が複雑であれば「むしろほっとした」「ようやく解放された」という感情があったかもしれません。
カウンセラーが「おそらくこう感じているはずだ」と早合点してしまうと、CLのこころの動きから離れてしまいます。感情の明確化とは、CLの感情を決めつけず、探り、確かめるための共同作業です。正解を言うことではなく、今この人の中で何が起きているのか、を一緒に確かめていく姿勢こそが、信頼関係をつくります。
私自身が臨床を重ねて感じるのは、人様の感情を扱うことに対して、カウンセラー自身がどれほど慎重であれるか、ということです。対人支援の場では、相手だけでなく、自分自身の感情も常に動いています。だからこそ、無意識のうちに「悲しいはず」「うれしいはず」といった準拠枠で相手を見てしまわぬよう、注意を払い、メタ認知し続けることが欠かせません。
感情の明確化とは、単なるテクニックではなく、人のこころに対する敬意の表現だと感じています。相手の語りの奥にある感情を丁寧に辿りながら、あなたの感じ方を知りたいと伝えること。その積み重ねが、カウンセリングという対話の場を支える、大切な基盤になるのです。