「ブリーフセラピーとポジティブ心理学って、どちらも前向きな感じで似ていませんか?」臨床やコーチングの文脈でよく聞かれる質問です。確かに、どちらも「できていないこと」より「できていること」に目を向けますし、「過去を深掘りしすぎない」姿勢も共通しています。

けれどこの2つは、同じ方向を向いているようで、立っている場所が違うものです。相違について考えてみました。

ブリーフセラピーは「困りごとを早く軽減させる」技法

ブリーフセラピーは心理療法、つまり技法です。目的はとても実務的で、「困っている状態が、日常生活で支障のないレベルになること」に置きます。

必ずしも「根本原因の理解」や「人格的成長」を目指しません。極端に言えば、困らなくなればOK、というスタンスです。

そのため、「なぜ問題が起きたのか」「子どもの頃に何があったのか」といった探索は、必要最小限にとどめます。代わりに問うのは、「うまくいっているときは?」「問題が起きていない例外は?」「明日ほんの少し楽になるとしたら、何が変わる?」等の変化を起こすための思考です。ブリーフセラピーは、問題を理解するためではなく、問題を続かせなくするためのセッションと言ってもいいかもしれません。

ポジティブ心理学は「人はどうすれば、よりよく生きられるか」を研究する学問

一方、ポジティブ心理学は心理療法ではなく、心理学の研究分野です。「人間の強み」「幸福」「意味」「ウェルビーイング」などを扱います。

そもそも、問題があることを前提にしていません。病気でなくても、困っていなくても、どうすればもっと充実して生きられるかを問います。「感謝」「強み」「フロー体験」「レジリエンス」などのキーワードは、治療よりも「人生を豊かにする」文脈で使われることが多いでしょう。

そのため、臨床だけでなく、教育、組織開発、コーチング、予防的メンタルヘルスといった領域にも、広く応用されています。

似てみえる理由と、決定的な違い

この2つが混同されやすいのは、「未来志向」「リソース志向」「できていることに注目する」という共通項があるからです。

ただし、決定的な違いは以下の点です。

  • ブリーフセラピーは、「マイナスを、生活可能なレベルまで戻す」
  • ポジティブ心理学は、「ゼロやプラスを、さらに豊かにする」

同じ「前向き」でも、扱っているフェーズが違うのです。

臨床現場での使い分け

実際の支援現場では、ブリーフセラピーの枠組みの中で、ポジティブ心理学の知見を素材として使う、という形がもっとも自然です。たとえば、こんな感じでしょう。

  • 例外探し(ブリーフ)に、強みの視点(ポジティブ心理学)を重ねる
  • 小さな変化を広げる際に、感謝や意味づけを活用する

注意点は、苦しさが強い状態で「もっと前向きに」とか「強みに目を向けよう」と促すと、かえってしんどさを増やしてしまうことです。

私はブリーフセラピーは会社員時代にそれとは知らずに使っていた技法で改めて心理療法として再定義する必要を感じなかったこと、ポジティブ心理学は前向きになりたいのになれない人が多いなかで使える場面が限定される点で、積極的に学んでこない領域でした。有用性は認めているので、必要に迫られた今、改めて少しずつ足を踏み入れようと考えています。

おわりに

大学院時代に、ブリーフセラピーとポジティブ心理学があれば他の心理療法や理論はなくてもいいと豪語する同僚がいて、それは危険な思想だなと感じていました。

ブリーフセラピーもポジティブ心理学も、どちらも「人を楽にする」ための知恵です。ただし、「今、困っている人に必要なのは何か」「これからの人生を広げたい人に必要なのは何か」支援者にはその見極めが求められます。

似ているからこそ区別して使う。その繊細さが支援の質を決めるのだと思っています。


cocoro no cacari|大塚紀廣

1976年千葉県生まれ。大学卒業後、第二新卒で(株)リクルートに入社、国内旅行情報じゃらんを担当した。その後同グループであった(株)ゆこゆこへ籍を移し、人事部で人材採用、社員研修の企画運営、ストレスチェック実行者等を担当した。40歳で退社し、臨床心理学大学院へ進学。修了後は東京大学医学部付属病院老年病科、都内のメンタルクリニック等で心理士業務に就き、現在に至る。専門は高齢者臨床と産業心理。趣味はロードバイク、サッカー、ジェフ千葉、漫画、温泉など。